こんにちは、ユウです。
消化器外科の患者さんを受け持つと、「熱が出ているけれど、手術後の反応として見てよいのだろうか」「腹痛は創部の痛みなのか、それとも別の異常なのか」と迷うことがありますよね。
私が外科病棟で勤務していたときも、術後の患者さんを観察するときは、体温だけでなく、脈拍、腹部症状、尿量、ドレーン排液の変化を時系列で確認していました。ひとつの所見だけでは判断しにくくても、いくつかの変化が重なると、早めの報告につながることがあるからです。
今回取り上げる縫合不全は、消化管の手術後に注意したい合併症のひとつです。吻合した部分が十分に治癒せず、消化液や消化管内容物が周囲へ漏れると、腹膜炎や敗血症に進行することがあります。
この記事では、まず縫合不全がどのような状態なのかを確認し、その後に、起こりやすい時期、原因、症状、観察項目、疑ったときの看護師の対応を順番に解説します。
縫合不全とは
1.消化管のつなぎ目が十分に治らず、内容物が漏れる状態
消化管の手術では、胃や腸の一部を切除したあと、残った消化管同士をつなぎ合わせます。このつなぎ目を吻合部(ふんごうぶ)といいます。
縫合不全とは、縫合・吻合した組織が十分に癒合せず、接合部に隙間が生じた状態です。胃液、胆汁、膵液、腸液、便などが吻合部から漏れると、周囲に炎症や感染が起こります。
漏れが小さく局所にとどまる場合は、膿瘍やドレーン排液の変化として見つかることがあります。一方、漏れが腹腔内に広がると腹膜炎を起こし、さらに全身へ影響すると敗血症や多臓器障害に進む危険があります。
なお、皮膚の手術創が開く創離開も「縫合した部分が開く」という点では似ていますが、消化管の吻合部から内容物が漏れる縫合不全とは病態と対応が異なります。この記事では、主に消化管吻合部の縫合不全について説明します。
縫合不全の定義と重症化の考え方については、日本医事新報社「縫合不全、消化器外科医の闘い」も参考になります。
2.縫合糸だけで治癒するわけではない
縫合糸やステープルは、組織が治癒するまで吻合部を支える役割を担います。しかし、最終的に組織をつなぐのは、患者さん自身の創傷治癒反応です。
創傷治癒は、一般に次の過程が重なりながら進みます。
- 止血期:血管収縮や血液凝固によって出血を止める時期
- 炎症期:白血球などが細菌や壊死組織を処理する時期
- 増殖期:線維芽細胞、血管新生、コラーゲン産生などによって組織を修復する時期
- 再構築期:コラーゲンが再編成され、組織の強度が徐々に増す時期
これらは明確に区切られるものではなく、重なりながら進みます。術後の日数だけで「もう完全に治った」と判断できるわけではなく、血流、感染、栄養状態、吻合部にかかる張力などによって治癒の進み方は変わります。
創傷治癒の基本は、日本血栓止血学会用語集「創傷治癒」や、日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌「分かりやすい創傷治癒理論と治療の実際」で確認できます。
縫合不全が起こりやすい時期
3.術後数日から1週間前後に明らかになることが多い
消化管の縫合不全は、一般に術後数日から1週間前後に明らかになることが多いとされます。ただし、手術部位、術式、漏れの大きさ、ドレーンの位置、患者さんの全身状態によって発見される時期は異なります。
ここで大切なのは、術後の日数だけで「もう大丈夫」と判断しないことです。術後早期に症状が出る場合もあれば、いったん退院したあとに発熱や腹痛が現れる場合もあります。
特に、いったん落ち着いていた患者さんに、発熱、頻脈、腹痛、腹部膨満、食欲低下、倦怠感などが新たに現れたときは注意します。ただし、発熱の再上昇だけで縫合不全と決めつけることはできません。肺合併症、尿路感染、カテーテル関連感染、薬剤熱なども含めて評価します。
看護学習用の解説では、看護roo!「縫合不全」にも、術後1週間前後に起こりやすい合併症として整理されています。実際の判断では、術式ごとの医師の指示と施設の観察基準を優先してください。
縫合不全の原因とリスク因子
4.局所・手術に関連する要因
縫合不全は、一つの原因だけで起こるとは限りません。吻合部の状態と患者さんの全身状態が重なって発症することがあります。
- 吻合部の血流不足や組織の虚血
- 吻合部に過度な張力がかかっている
- 組織の浮腫や脆弱性
- 吻合部周囲の感染や汚染
- 緊急手術、長時間手術、大量出血
- 吻合部より口側の通過障害や消化管内圧の上昇
- 手術部位や疾患の進行度
手術手技も要因の一つになり得ますが、縫合不全を単純に「縫い方が悪かった」と考えるのは適切ではありません。血流、組織の状態、感染、手術の難しさ、患者さんの背景などが複雑に関係します。
5.患者さんの全身状態に関連する要因
- 低栄養、低アルブミン血症、体重減少
- 貧血や組織の酸素化低下
- 糖尿病や周術期の高血糖
- 喫煙
- 肥満または著しい低体重
- 高齢、フレイル
- 腎機能障害、肝機能障害などの基礎疾患
- 副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の使用
- 化学療法や放射線治療の影響
リスク因子があるからといって、必ず縫合不全を起こすわけではありません。しかし、リスクが高い患者さんでは、術前から栄養、血糖、呼吸状態、服薬状況などを把握し、術後の小さな変化を丁寧に追う必要があります。
縫合不全を疑う症状と観察項目
6.全身状態とバイタルサイン
縫合不全の症状は、漏れの部位や程度によって異なります。初期には腹膜刺激症状がはっきりせず、頻脈や倦怠感などの変化だけが現れる場合もあります。
- 新たな発熱、または発熱の持続・再上昇
- 脈拍数の増加
- 呼吸数の増加
- 血圧低下
- 悪寒、冷汗、末梢冷感
- 意識状態の変化、不穏、反応の鈍化
- 尿量減少
- 強い倦怠感や食欲低下
血圧低下は重症化してから現れることがあります。血圧が保たれていても、頻脈、呼吸数増加、意識変化、尿量減少などがあれば、全身状態の悪化を疑います。
縫合不全から感染が広がると敗血症に進行する可能性があります。敗血症の評価と感染源コントロールについては、日本版敗血症診療ガイドライン2024が参考になります。
7.腹部の症状
- 腹痛の増強や性質の変化
- 限局した圧痛または腹部全体の圧痛
- 腹部膨満
- 筋性防御、反跳痛などの腹膜刺激症状
- 腸蠕動音の低下
- 悪心・嘔吐
- 排ガス・排便の停止
- 食事開始後の腹痛、発熱、全身状態の悪化
鎮痛薬や硬膜外鎮痛によって痛みが目立ちにくいこともあります。高齢者や免疫機能が低下している患者さんでは、発熱や強い腹痛がはっきりしない場合もあるため、表情、活動性、食事摂取量などの変化も確認します。
8.ドレーン排液の変化
ドレーンは、腹腔内の液体を排出するだけでなく、縫合不全を早期に発見する手がかりになる場合があります。排液は一回の量だけでなく、前回からの変化を記録します。
- 排液量と時間あたりの増減
- 色と透明度
- 混濁、膿性変化
- 便臭や腐敗臭など、においの変化
- 食物残渣のような内容物
- 胆汁様、腸液様、唾液様など術式に応じた変化
- 血性排液の増加
- 排液中アミラーゼなど、指示された検査値の推移
排液量が少ないから安全とは限りません。ドレーンの屈曲、閉塞、位置ずれによって、漏れた内容物が外へ排出されず腹腔内にたまっている可能性もあります。挿入部、固定、屈曲、吸引状態を確認し、自己判断で強くミルキングや洗浄を行わないようにします。
9.血液検査は単独値ではなく推移を見る
縫合不全では、白血球数、CRP、プロカルシトニン、乳酸値、腎機能、肝機能、凝固系などに変化がみられることがあります。しかし、手術侵襲だけでも白血球数やCRPは上昇します。
そのため、一回の検査結果だけで判断せず、術後日数、これまでの推移、バイタルサイン、腹部所見、ドレーン排液を組み合わせて評価します。必要に応じて、造影CT、消化管造影、内視鏡、ドレーン排液の検査などが行われます。
縫合不全が疑われるときの看護師の対応
10.まず全身状態を確認し、速やかに報告する
縫合不全が疑われる場合は、一人で経過観察を続けず、速やかに医師やリーダー看護師へ報告します。患者さんの状態や施設の手順に従い、必要な応援を要請します。
食事や飲水中であれば、経口摂取を続けてよいか確認します。絶飲食にするか、内服薬や水分をどう扱うかは、患者さんの状態と医師の指示に基づいて判断します。
報告までに、次の情報を整理しておくと状況を共有しやすくなります。
- 手術名、吻合部位、術後日数
- 症状が始まった時刻と変化
- 体温、脈拍、呼吸数、血圧、SpO2、意識状態
- 腹痛の部位・強さ・性質、腹部所見
- ドレーン排液の量・色・性状・におい
- 尿量
- 食事開始時期と最終摂取内容
- 直近の血液検査結果
11.報告例
「S状結腸切除後5日目です。15時から腹痛が増強し、体温38.2℃、脈拍112回、呼吸数24回、血圧108/66mmHgです。安静時の腹痛はNRS7で、左下腹部に圧痛があります。骨盤腔ドレーン排液が2時間で淡血性から混濁した褐色に変化し、便臭があります。尿量は直近2時間で減少しています。縫合不全を疑うため診察をお願いします」
「熱があります」だけでなく、術後日数、変化の時刻、バイタルサイン、腹部所見、排液、尿量を具体的に伝えると、緊急性が共有しやすくなります。
縫合不全の治療
12.重症度や漏れの範囲によって治療が選択される
縫合不全が起きたからといって、必ず再手術になるわけではありません。漏れの大きさ、腹膜炎の広がり、感染源が排出されているか、循環状態、栄養状態などをもとに治療方針が決まります。
- 絶飲食と輸液管理
- 経腸栄養・静脈栄養などを含む栄養管理
- 抗菌薬治療
- 既存ドレーンの調整や経皮的ドレナージ
- 内視鏡的治療
- 再手術、腹腔内洗浄、再吻合、人工肛門・腸瘻造設など
- 敗血症に対する呼吸・循環・臓器サポート
感染源を適切にコントロールすることは、重症感染の治療で重要です。敗血症に進行している場合の考え方は、日本集中治療医学会「日本版敗血症診療ガイドライン2024」正式版公開ページでも確認できます。
縫合不全を予防・早期発見する看護
13.術前からリスクを把握する
看護師が吻合そのものを作るわけではありませんが、創傷治癒を妨げる要因を術前から把握し、周術期管理につなげることができます。
- 体重減少、摂取量、嚥下状態、栄養指標を確認する
- 糖尿病の有無と血糖推移を確認する
- 喫煙状況を把握し、禁煙支援につなげる
- ステロイド薬・免疫抑制薬などの服薬を確認する
- 皮膚や口腔内の清潔を保つ
- 術後の観察項目や食事再開の流れを説明する
周術期感染予防については、日本外科感染症学会の情報や、日本化学療法学会・日本外科感染症学会「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」が参考になります。
14.食事再開後の変化を観察する
食事開始の時期や内容は、術式と医師の指示に従います。食事再開後は、摂取量だけでなく、腹痛、腹部膨満、悪心・嘔吐、発熱、ドレーン排液の変化を確認します。
「食べられたから問題ない」とは限りません。摂取後に症状や全身状態がどう変化したかまで観察し、異常があれば次の食事を進める前に報告します。
15.ドレーンを安全に管理する
- 指示された吸引圧や開放・閉鎖状態を確認する
- チューブの屈曲、圧迫、牽引を防ぐ
- 挿入位置と固定状態を確認する
- 排液量を決められた間隔で測定する
- 色・性状・においを前回と比較する
- 排液バッグを適切な位置に保つ
- 異常時は、必要な観察・検体採取の指示を確認してから廃棄する
ドレーン管理は、術式、製品、留置目的によって異なります。排液が出ない場合に、自己判断で強くしごいたり洗浄したりせず、施設の手順と医師の指示に従います。
16.栄養・血糖・感染管理を支える
組織の修復にはエネルギーと栄養素が必要です。栄養状態、血糖、体重、浮腫、摂取量を確認し、必要に応じて医師、管理栄養士、薬剤師などと連携します。
手指衛生、清潔操作、創部・ドレーン刺入部の観察も重要です。予防抗菌薬は自己判断で追加・延長するものではなく、ガイドライン、施設基準、医師の指示に基づいて使用されます。
退院後に説明したい症状
17.異常時の連絡方法を具体的に伝える
縫合不全や腹腔内感染は、退院後に明らかになる場合もあります。次のような症状があるときは、我慢せず医療機関へ連絡するよう説明します。
- 発熱や悪寒
- 強くなる腹痛や胸痛
- 腹部膨満、繰り返す嘔吐
- 食事や水分がとれない
- 息苦しさ、動悸、冷汗
- 創部の発赤、腫脹、排膿、創の開き
- ドレーン排液の急増、混濁、悪臭
- 強い倦怠感、意識がぼんやりする
「何度以上の発熱なら連絡するか」「夜間・休日はどこへ連絡するか」など、施設の基準に沿って具体的に伝えます。
筆者の体験談
私が外科病棟で勤務していた頃、消化管手術後の患者さんを受け持つ際には、発熱の有無だけでなく、脈拍、腹部の張りや痛み、食事摂取量、尿量、ドレーン排液の変化を前日と比較しながら観察していました。
縫合不全が疑われる患者さんでは、必ずしも最初から強い腹痛や血圧低下がみられるとは限りません。「少しお腹が張る」「何となく気分が悪い」といった小さな訴えや、脈拍の上昇、排液の混濁などが最初の変化として現れることもあります。
そのため、私は一つの症状だけで判断せず、患者さんの普段の状態と比べて何が変化しているのかを確認し、気になる所見が複数重なった時点で早めに報告するようにしていました。
縫合不全の早期発見では、特別な知識だけでなく、患者さんを継続して観察し、小さな変化を記録・共有することが大切です。看護学生の皆さんも、発熱だけに注目せず、バイタルサイン、腹部症状、ドレーン排液、食事摂取量などを一つの流れとして捉えてみてください。
よくある質問
Q1.縫合不全は術後4~10日にだけ起こりますか?
いいえ。術後数日から1週間前後に明らかになることは多いものの、手術部位や術式によって異なり、早期または退院後に起こる場合もあります。決まった日数だけで除外しません。
Q2.発熱があれば縫合不全ですか?
発熱だけでは判断できません。術後の炎症反応、肺合併症、尿路感染、カテーテル感染、薬剤など、さまざまな原因があります。脈拍、呼吸数、腹部所見、ドレーン排液、検査値の推移と合わせて評価します。
Q3.ドレーン排液が少なければ安心ですか?
必ずしも安心とはいえません。漏れが少ない可能性のほか、ドレーンの閉塞や位置ずれによって排出されていない可能性もあります。患者さんの全身状態とドレーンの状態を確認します。
Q4.縫合不全になったら必ず再手術ですか?
必ずではありません。漏れが限局し、十分にドレナージできていて全身状態が安定している場合は、絶飲食、栄養管理、抗菌薬、ドレナージ、内視鏡的治療などが選択されることがあります。一方、汎発性腹膜炎や循環不全などでは緊急手術が必要になる場合があります。
Q5.CRPが高ければ縫合不全ですか?
CRPは手術侵襲でも上昇するため、単独では診断できません。術後日数に対して高値が続く、いったん低下したあとに再上昇するなどの推移と、症状、バイタルサイン、排液、画像所見を組み合わせて判断します。
まとめ
縫合不全は、消化管の吻合部が十分に治癒せず、消化液や消化管内容物が周囲へ漏れる合併症です。腹膜炎、膿瘍、敗血症へ進行する可能性があるため、早期発見が重要です。
観察では、発熱やCRPだけでなく、脈拍、呼吸数、腹痛、腹部膨満、意識、尿量、ドレーン排液の量・色・性状・においを時系列で確認します。排液の減少がドレーン閉塞を示す場合があることも覚えておきましょう。
縫合不全を疑ったら、経口摂取を続けてよいか確認し、一人で様子を見続けず速やかに報告します。治療は状態によって異なり、抗菌薬やドレナージで改善する場合もあれば、内視鏡治療や再手術が必要になる場合もあります。
それぞれの術後合併症について詳しくまとめましたのでご活用ください。
術後合併症の種類と出現時期
- 術後合併症の種類と出現時期
- 術後合併症 ~術後出血~
- 術後合併症 ~縫合不全~
- 術後合併症 ~術後疼痛~
- 術後合併症 ~術後感染症~
- 術後合併症 ~呼吸器合併症~
- 術後合併症 ~深部静脈血栓症(DVT)~
- 術後合併症 ~離床遅延~
- 術後合併症 ~術後イレウス(腸管麻痺)~
- 術後合併症 ~術後せん妄~
参考になる書籍「術前・術後ケアの基本」
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参考文献
- 日本医事新報社:縫合不全、消化器外科医の闘い
- 看護roo!:縫合不全
- 日本外科感染症学会:消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン/SSI Living Guidelines
- 日本化学療法学会・日本外科感染症学会:術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン
- 日本集中治療医学会・日本救急医学会:日本版敗血症診療ガイドライン2024
- 日本集中治療医学会:日本版敗血症診療ガイドライン2024正式版公開ページ
- 日本集中治療医学会雑誌:日本版敗血症診療ガイドライン2024
- 日本血栓止血学会用語集:創傷治癒
- 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌:分かりやすい創傷治癒理論と治療の実際
- 日本創傷外科学会:創傷一般に関するガイドライン
※本記事は、看護学生・看護師の学習を目的とした一般的な解説です。縫合不全の報告基準、食事・飲水の中止、ドレーン管理、検査・治療は、患者さんの状態、術式、医師の指示、各医療機関の手順を優先してください。





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