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術後合併症 ~離床遅延~

周手術期看護
この記事は約10分で読めます。

こんにちは、ユウです。

手術を受けた患者さんに、「できるだけ早く動きましょう」と声をかけることがあります。

しかし、患者さんからは「傷が開きそうで怖い」「痛くて動けない」「管がたくさん入っていて不安」と言われることもあります。看護師としては、早く動いてもらいたい気持ちと、安全に進めたい気持ちの両方を大切にしなければなりません。

離床が遅れると、筋力低下だけでなく、呼吸器合併症、深部静脈血栓症、便秘・腸管運動の低下、せん妄、褥瘡などのリスクが高まります。一方で、全身状態が不安定な患者さんを無理に起こすことも危険です。

今回は、術後の離床が遅れる原因、離床を開始する時期の考え方、安全な進め方、看護師が観察するポイントについて整理します。

周手術期看護の術後合併症については、術後合併症シリーズ一覧も参考にしてください。

この記事でわかること

  • 離床遅延が起こる主な原因
  • 早期離床が必要とされる理由
  • 患者さんの状態に合わせた離床の進め方
  • 離床を中止・延期して報告する目安

結論として、早期離床は「術後何日以内に必ず歩くべし」というものではありません。疼痛、呼吸・循環状態、意識、出血、チューブ類、患者さんの意欲を確認し、許可された範囲で術後なるべく早い時期から進めることが重要です。

術後合併症~離床遅延~

1.離床遅延とは

離床とは、ベッド上で姿勢を変えるだけでなく、ベッドから身体を起こして座る、立つ、車椅子へ移る、歩くなど、生活の場をベッド以外へ広げていくことです。

離床遅延は、単独の病気というよりも、疼痛や悪心、循環不安定、筋力低下、不安などによって、予定していた活動に進めない状態を指します。離床の遅れが長くなると、活動量がさらに減り、筋力や持久力が低下して、いっそう動けなくなる悪循環に陥りやすくなります。

なお、離床を進める時期と方法は、手術部位、術式、麻酔方法、合併症、ドレーンや点滴の有無などによって異なります。この記事の内容は一般的な学習用の整理であり、実際には医師の指示と施設の手順を優先してください。

術後の歩行と早期離床
術後の歩行と早期離床(イメージ)

2.早期離床が必要な理由

手術後に長く安静にしていると、筋骨格系だけでなく、呼吸器、循環器、消化器、精神神経系などにも影響が及びます。文献によると、術後の不必要な安静が筋力低下や肺換気機能障害などの廃用症候群を助長し、ADL低下や入院期間の長期化につながる可能性が示されています。

リハビリテーションから見た早期離床の注意点や工夫点(外科と代謝・栄養、2023年)

活動量が低下すると、次のような問題が起こりやすくなります。

  • 深呼吸や咳嗽が減り、無気肺や肺炎などの呼吸器合併症につながる
  • 下肢の筋力が低下し、立位・歩行能力やADLが低下する
  • 静脈うっ滞が起こり、深部静脈血栓症のリスクが高まる
  • 腸管運動が低下し、便秘や術後イレウスの一因となる
  • 昼夜のリズムが乱れ、せん妄や不安が生じやすくなる
  • 同じ姿勢が続き、皮膚トラブルや褥瘡のリスクが高まる

ただし、早期離床は「無理に歩かせること」ではありません。ベッド上での体位変換、端座位、車椅子への移乗なども、患者さんの状態に応じた大切な活動です。

3.離床が遅れる主な原因

疼痛

創部の痛みが強いと、患者さんは身体を動かすことや深呼吸、咳嗽を避けるようになります。痛みを我慢させるのではなく、離床の予定を共有し、必要な鎮痛薬を使用する時間を医師・看護師・リハビリテーションスタッフで調整します。

悪心・嘔吐、めまい

麻酔や鎮痛薬の影響で、悪心、嘔吐、ふらつきが出ることがあります。症状があるまま急に立位をとると、転倒や誤嚥につながる可能性があるため、症状を確認しながら段階を戻します。

呼吸・循環状態の不安定さ

低酸素、頻呼吸、血圧低下、頻脈、不整脈、活動性出血などがある場合は、離床よりも全身状態の安定化が優先されます。硬膜外鎮痛や静脈内自己調節鎮痛法などの影響で、起き上がったときに血圧が下がることもあります。

疲労感、筋力低下、低栄養

手術侵襲、絶食、発熱、出血、睡眠不足などが重なると、患者さんは強い疲労や脱力を感じます。術後の経過だけでなく、術前のフレイルやサルコペニア、栄養状態も離床の進み方に影響します。

不安や恐怖

「動くと傷が開くのではないか」「管が抜けるのではないか」という不安は、離床を妨げる大きな要因です。離床の目的、手順、スタッフがそばにいることを説明し、患者さんが納得して参加できるようにします。

チューブ・ドレーン類や環境

点滴、尿道カテーテル、ドレーン、酸素チューブなどが動作の妨げになることがあります。チューブを整理し、必要な人数と物品を準備してから開始します。チューブが多いことだけを理由に、必要な活動をすべて中止しないことも大切です。

開腹術後患者の離床に関する看護師の判断を調べた研究では、体力や足腰の状態、バイタルサイン、疼痛、患者さんの積極性、安全上のリスクなどを総合して開始時期を判断していました。

開腹術後患者における早期離床を促進する看護師の判断のプロセス(日本看護研究学会雑誌、2014年)

4.離床を開始する時期

離床の開始時期は、手術の種類や侵襲の大きさ、麻酔方法、術後の検査値とバイタルサイン、合併症の有無によって異なります。「術後翌日から必ず歩く」と決めつけるのではなく、患者さんが安全に活動できる状態かを評価します。

全身状態が安定し、出血や重い呼吸・循環器症状がなく、主治医や施設の基準で許可されている場合には、術後当日からベッド上の運動や端座位を始め、翌日以降に立位・移乗・歩行へ進めることがあります。一方で、重症心疾患、活動性出血、循環不安定、重い呼吸不全、意識障害などがある場合は、離床の延期や方法の変更が必要です。

ERASプロトコルを適用した大腸手術患者を観察した日本の研究では、手術当日から翌日にかけて、食事、排泄、交流などの生活行動を通してベッドを離れる過程が示されています。ただし、これは研究で用いられたプロトコルの例であり、すべての患者さんに同じ時間表を適用するものではありません。

大腸術後患者の早期離床―Enhanced Recovery After Surgeryプロトコール適用患者の参加観察から―(日本看護技術学会誌、2013年)

5.早期離床に向けた術前・術後の準備

術前に行うこと

  • 術後に起き上がる目的と、ベッド上運動・端座位・立位・歩行の流れを説明する。
  • 普段の歩行能力、補助具の使用、転倒歴、めまい、聴力・視力などを確認する。
  • 患者さんが不安に感じていることを聞き、創部やチューブ類への不安に答える。
  • 必要に応じて、呼吸訓練や下肢運動、栄養・禁煙などのプレハビリテーションについて多職種と連携する。

術後に行うこと

  • 疼痛、悪心、呼吸状態、循環状態、意識状態、出血の有無を確認する。
  • 鎮痛薬の効果と副作用を確認し、離床しやすい時間帯を検討する。
  • 滑りにくい履物、歩行器や杖、車椅子、酸素・点滴スタンドなどを準備する。
  • 初回離床では、必要なスタッフを確保し、ナースコールやベッド周囲の障害物を確認する。

6.離床の進め方

離床は、患者さんの反応を確認しながら、次のように段階を踏んで進めます。途中で症状が出た場合は、無理に次の段階へ進めません。

  1. 説明と観察:離床の目的と手順を説明し、開始前の血圧、脈拍、呼吸数、SpO2、疼痛、めまい、悪心を確認します。
  2. ベッド上の準備:体位変換や足関節の運動を行い、必要に応じてベッドをゆっくり起こします。
  3. 端座位:ベッドの端に座り、顔色、意識、呼吸、めまい、血圧低下の有無を確認します。
  4. 立位:足元の安定を確認し、スタッフが身体を支えながら短時間立ちます。
  5. 移乗・歩行:状態が安定していれば、車椅子への移乗や数歩の歩行へ進みます。距離や時間は患者さんに合わせます。
  6. 終了後の評価:ベッドや椅子に戻った後、離床前と同じ項目を再確認し、疲労や症状、チューブ類の状態を記録します。

7.離床中の観察と中止・報告の目安

離床中は血圧やSpO2の数字だけでなく、患者さんの表情、会話の様子、顔色、冷汗、ふらつき、息切れ、胸痛、吐き気などを観察します。

次のような状態がある場合は、離床を開始せず、または直ちに中止して、施設の基準に従い医師・リハビリテーションスタッフ・責任者へ報告します。

  • 活動性出血、急な創部出血、ドレーン排液の急増がある
  • 意識レベルの低下、新たな神経症状、強い不穏がある
  • 重い呼吸困難、SpO2低下、異常な呼吸パターンがある
  • 著しい血圧低下・上昇、頻脈、徐脈、コントロールされていない不整脈がある
  • 強い胸痛、冷汗、失神前症状、耐えられない疼痛がある
  • 転倒につながるほどのふらつきや下肢の支持力低下がある

日本集中治療医学会の早期リハビリテーションに関する提言や、早期離床に関する日本語の総説にも、開始・中止を判断する際の安全確認がまとめられています。

集中治療における早期リハビリテーション~早期離床・リハビリテーションの中止基準~(日本集中治療医学会)

8.歩行できないときの看護

患者さんがまだ歩けないからといって、何もしないまま安静を続けるわけではありません。医師やリハビリテーションスタッフの指示を確認し、可能な範囲で次の活動を行います。

  • 定期的な体位変換とポジショニング
  • 足関節の背屈・底屈、膝の曲げ伸ばしなどの下肢運動
  • 深呼吸や咳嗽の援助、呼吸訓練
  • ベッド上での食事・整容・排泄など、できる生活行動の拡大
  • ベッドアップ、端座位、車椅子への移乗など、歩行前の段階づくり

「歩けたかどうか」だけで評価せず、患者さんがどの姿勢で、どの活動を、どれくらい安全に行えたかを記録すると、次の離床計画につながります。

9.術後合併症まとめ

それぞれの術後合併症について詳しくまとめましたのでご活用ください。

術後合併症の種類と出現時期

  1. 術後合併症の種類と出現時期
  2. 術後合併症 ~術後出血~
  3. 術後合併症 ~縫合不全~
  4. 術後合併症 ~術後疼痛~
  5. 術後合併症 ~術後感染症~
  6. 術後合併症 ~呼吸器合併症~
  7. 術後合併症 ~深部静脈血栓症(DVT)~
  8. 術後合併症 ~離床遅延~
  9. 術後合併症 ~術後イレウス(腸管麻痺)~
  10. 術後合併症 ~術後せん妄~

参考になる書籍

術前・術後の観察とケアをまとめて学びたい方は、次の書籍も参考にしてください。

術前・術後ケアの基本

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筆者の体験談

私が外科病棟で勤務していた頃、術後初回離床を予定していた患者さんから「動くと傷が開きそうで怖い」と言われたことがありました。痛みを確認して鎮痛薬の効果が出る時間を調整し、まずはベッド上で身体を少し起こすところから始めました。

その患者さんは、いきなり歩くことには不安がありましたが、端座位で顔色やめまいを確認し、点滴とドレーンを整理してから立位へ進むと、落ち着いて動くことができました。離床後には「思ったより怖くなかった」と話してくださり、次の活動への自信にもつながりました。

この経験から、早期離床は「歩かせること」だけではなく、患者さんの不安を聞き、痛みを調整し、安全にできる小さな動作から一緒に進めることが大切だと学びました。これは私個人の臨床経験であり、すべての患者さんに同じ方法が適用できるわけではありません。

まとめ

  • 離床遅延は、疼痛、悪心、循環・呼吸状態、不安、筋力低下、チューブ類など複数の要因で起こる。
  • 早期離床は廃用症候群や術後合併症の予防に役立つが、開始時期は患者さんごとに判断する。
  • ベッド上運動、端座位、立位、移乗、歩行へと段階的に進め、反応を確認する。
  • 活動性出血、重い呼吸・循環不安定、意識障害、強い症状がある場合は中止・延期して報告する。

よくある質問(FAQ)

Q1.術後は必ず翌日から歩かせるのですか?

必ずではありません。手術の種類、全身状態、出血や合併症の有無、医師の指示によって開始時期は変わります。術後当日や翌日から離床を始める計画があっても、患者さんの状態が基準を満たさなければ延期や方法の変更を検討します。

Q2.痛みがなくなるまで離床を待つべきですか?

痛みが完全になくなるまで待つ必要はありませんが、強い痛みを我慢させて動かすのも適切ではありません。鎮痛薬の効果と副作用を確認し、痛みを許容できる範囲に調整してから、できる動作から始めます。

Q3.点滴やドレーンがある患者さんは離床できませんか?

チューブ類があっても、状態と術式の許可があれば離床できることがあります。ただし、固定、長さ、排液バッグの位置、酸素チューブの余裕を確認し、必要な人数で介助します。抜去や牽引が疑われる場合は、活動を中止して確認します。

Q4.離床中にめまいが出たらどうしますか?

すぐに動作を止め、転倒しないよう支えながら安全な姿勢に戻します。意識、顔色、血圧、脈拍、SpO2などを確認し、症状が続く場合や失神・胸痛・呼吸困難を伴う場合は、直ちに報告します。

Q5.歩けない患者さんには何をすればよいですか?

体位変換、足関節運動、ベッドアップ、端座位、食事や整容など、許可された範囲の活動を行います。歩行の可否だけでなく、前回より姿勢保持時間が延びたか、生活行動が増えたかなど、段階的な変化を評価します。

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ユウのアドバイス

早期離床で大切なのは、患者さんを急がせることではなく、安全に動ける条件を整えることです。痛みや不安を確認し、バイタルサインと表情を観察しながら、小さな動作を積み重ねていきましょう。離床の遅れがあるときは、患者さんの意欲だけの問題にせず、疼痛、悪心、循環、呼吸、薬剤、チューブ類などを一つずつ評価してください。

参考文献・参考資料

  1. 内村公亮:リハビリテーションから見た早期離床の注意点や工夫点.外科と代謝・栄養,57(5),2023.
  2. 柴裕子,松田好美:開腹術後患者における早期離床を促進する看護師の判断のプロセス.日本看護研究学会雑誌,37(4),2014.
  3. 加藤木真史:大腸術後患者の早期離床―Enhanced Recovery After Surgeryプロトコール適用患者の参加観察から―.日本看護技術学会誌,12(1),2013.
  4. 日本集中治療医学会:集中治療における早期リハビリテーション~早期離床・リハビリテーションの中止基準~.
  5. 日本離床学会:早期離床・看護・リハビリテーションに関する教育情報.

この記事は看護学習を目的とした一般的な解説です。離床の可否、開始時期、介助方法は、患者さんの状態、術式、医師の指示、施設の基準に従って判断してください。

この記事を書いた人
ユウ塾長

看護師・看護大学教員としての経験を持ち、これまでに看護関連書籍を約10冊執筆・出版。臨床・教育・執筆で培った知識と経験をもとに、看護師・看護学生が「なぜそうするのか」を理解できるよう、根拠に基づいた看護情報をわかりやすく解説しています。

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コメント

  1. 腹腔鏡手術で直腸癌を切除、その後縫合不全発生しましたが保存的治療を現在継続中。絶食なので食事を始めるまでどの位期間を開ければ良いのか教えてください。例えばCRPが、1以下になれば大丈夫など具体的な指標あれば目安になり助かります。

    • コメントありがとうございます。
      縫合不全による絶食からの食事再開のタイミングは、よく分かりません。
      消化器外科の医師に聞いていただけると幸いです。お力になれず申し訳ありません。

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