こんにちは、ユウです。
手術前の患者さんに行う処置の一つに、手術部位の毛を整える「剃毛(ていもう)」があります。
看護学生さんからは、「剃毛は感染予防のために必ず行うのですか?」「どこまで剃ればよいのですか?」「カミソリを使ってはいけないのですか?」といった質問をよく受けます。
以前は、手術前には広い範囲を剃毛することが一般的でした。しかし現在は、毛が手術操作の妨げにならない限り、一律に除毛しないという考え方が広がっています。必要な場合も、皮膚を傷つけにくい方法を選ぶことが重要です。
この記事では、剃毛の意味、実施を検討する場面、具体的な手順、患者さんへの看護、そして「剃毛は本当に必要なのか」という現在の考え方を整理します。
術前処置としての剃毛
1.剃毛とは
剃毛は「ていもう」と読み、毛を剃ることを意味します。手術を行う部位の毛を短くしたり取り除いたりする処置です。
なお、毛を整える方法には、カミソリで皮膚の近くまで剃る方法だけでなく、電気クリッパーで短く刈る方法、はさみで長い毛を切る方法、除毛剤を使用する方法などがあります。これらをまとめて「除毛」と表現することもあります。
看護学生が実習で覚えておきたいのは、「手術をする人は全員剃毛する」と決めつけないことです。手術部位、術式、ドレッシングの貼付、患者さんの皮膚状態などを確認し、医師の指示と施設の手順に沿って実施します。
2.剃毛・除毛を行う目的
手術操作や創部の処置を妨げないため
毛が多いと、切開部位の確認、皮膚の消毒、ドレープの固定、創部の縫合やドレッシング材の貼付が行いにくくなることがあります。手術の視野や処置を確保するために、必要最小限の範囲だけ毛を整えることがあります。
感染予防との関係
以前は「毛に付着した細菌を取り除くため、剃毛が感染予防になる」と考えられていました。しかし、現在の研究では、毛を取り除くこと自体が手術部位感染(SSI)を減らすとは限りません。
むしろ、カミソリで皮膚表面を削ると、目に見えない小さな傷ができ、皮膚のバリア機能が低下する可能性があります。日本語で紹介されているメタ解析でも、カミソリによる剃毛は、クリッピングや除毛を行わない場合よりSSIのリスクが高い可能性が示されています。詳しくはJHIサマリー日本語版やCochraneレビューで確認できます。
したがって、剃毛の目的を「感染予防」とだけ説明するのではなく、手術や術後処置に毛が影響する場合に、皮膚を傷つけない方法で必要な範囲を整えると理解することが大切です。
3.剃毛・除毛を検討する場面
剃毛や除毛を行うかどうかは、次の点を確認して判断します。
- 毛が切開部位や手術操作の妨げになるか
- ドレープ、テープ、ドレッシング材を確実に貼付できるか
- 術式に必要な皮膚の観察範囲を確保できるか
- 手術部位に発赤、湿疹、傷、感染、皮膚の脆弱性がないか
- 患者さんが処置の必要性と方法を理解し、同意しているか
毛が手術を妨げない場合は、無理に除毛しないことが基本です。毛を取り除く必要がある場合は、カミソリよりも電気クリッパーなど、皮膚への損傷を抑えやすい方法を選択します。方法と実施時期は、術式と施設の感染対策マニュアルに従ってください。
4.剃毛に使用する物品
- 電気クリッパー(使い捨てヘッド、または施設で定めた方法で管理されたもの)
- はさみ(長い毛を整える必要がある場合)
- 処置用シーツまたは防水シーツ
- バスタオル、掛け物
- 清拭用タオルやガーゼ
- 手袋、廃棄用袋
- 手指衛生用品

5.剃毛・除毛の手順
- 予定術式と実施範囲を確認する。
患者さんの本人確認、手術部位、術式、医師の指示、施設の基準を確認します。左右のある部位では、手術部位の確認も行います。 - 患者さんに説明する。
なぜ必要なのか、どの範囲を行うのか、どの方法を使うのかを説明します。痛みや不安、羞恥心がある場合は遠慮なく伝えてもらえるよう声をかけます。 - プライバシーと保温を整える。
カーテンを閉め、露出は処置部位だけにします。会陰部や胸部、頭部などでは、必要に応じて同性の看護師や他のスタッフの同席を検討します。 - 皮膚の状態を観察する。
発赤、湿疹、びらん、傷、出血、膿、腫脹、圧迫痕などがないか確認します。異常があれば、処置を始める前に医師や担当看護師へ報告します。 - 処置用シーツを敷く。
毛がベッドや寝衣に広がらないよう、剃毛部位の下にシーツを敷きます。 - 長い毛は必要に応じて短くする。
はさみを使う場合は皮膚を傷つけないようにし、無理に皮膚ぎりぎりまで切ろうとしません。 - 電気クリッパーで必要最小限の範囲を整える。
皮膚を強く押さえたり引っ張ったりせず、機器の取扱説明書に沿って使用します。カミソリで深く剃ることは避けます。 - 毛と汚れを除去する。
清潔なタオルやガーゼで、皮膚をこすらずに毛を取り除きます。皮膚を濡らすかどうかは、使用する機器の説明書と施設手順に従います。 - 処置後の皮膚を再確認する。
剃り残しだけでなく、発赤、擦過傷、出血、疼痛の有無を観察します。異常があれば記録し、手術チームへ共有します。 - 患者さんに終了を伝え、環境を整える。
衣類や寝具を整え、寒さや不快感がないか確認します。使用物品を片付け、手指衛生を行い、実施内容を記録します。
6.剃毛時の看護のポイント
皮膚を傷つけない
剃毛の前後で、皮膚の状態を比較します。高齢者、低栄養状態、糖尿病、ステロイド薬の使用、浮腫がある患者さんは皮膚が傷つきやすいことがあるため、特に慎重に観察します。
羞恥心と尊厳を守る
陰部や胸部、頭部などの処置では、患者さんの羞恥心や心理的負担に配慮します。必要な範囲以外はタオルで覆い、手順を一つずつ説明しながら進めます。頭部の剃毛など外見の変化が大きい処置では、本人の受け止めを確認し、家族への説明が必要かも検討します。
不安を把握する
剃毛は、患者さんにとって「いよいよ手術が始まる」と実感する場面になることがあります。処置中の表情や言葉から不安を把握し、手術の流れや予定を確認できるよう支援します。
記録と申し送りを行う
実施の有無、実施部位、使用した方法、皮膚状態、患者さんの反応、異常の有無を記録します。術後に発赤や傷が見つかった場合に、術前の皮膚状態と比較できるようにしておくことが大切です。
剃毛は本当に必要なのか
現在は、剃毛を一律に行わない病院も増えています。毛が手術の妨げにならない場合、除毛を行ってもSSIが減るとは限らないためです。
特にカミソリによる剃毛は、皮膚に微細な傷を作る可能性があります。傷ついた皮膚は本来のバリア機能を保ちにくくなり、感染リスクを高める可能性があります。

一方、毛が手術操作の妨げになる場合には、必要な範囲に限って電気クリッパーなどで整えます。世界保健機関(WHO)の手術部位感染予防ガイドラインも、手術部位感染の予防は複数の対策を組み合わせて行う考え方を示しており、剃毛だけで感染を防げるわけではありません。実際の方法は、WHO「手術部位感染予防ガイドライン」や各施設の手順を確認してください。
「毛があるから感染する」と単純に考えるのではなく、手術を安全に行うために本当に必要か、皮膚を傷つけない方法は何かを考えることが重要です。
筆者の体験談
私が外科病棟で術前準備を担当していた頃、患者さんから「本当にここまで剃る必要がありますか」と尋ねられることがありました。患者さんにとっては、剃毛の範囲が広いほど、手術への不安や羞恥心が強くなります。
以前は「手術だから剃るもの」と考えてしまいがちでしたが、実際に患者さんの皮膚を観察すると、剃毛後に赤みが出たり、わずかな擦り傷が見つかったりすることがありました。その経験から、まず術式と必要範囲を確認し、患者さんに理由を説明してから処置を行うことを意識するようになりました。
学生さんには、「剃毛をすること」だけを手技として覚えるのではなく、剃毛をしない選択肢も含めて、患者さんの皮膚と尊厳を守る術前看護として考えてほしいと伝えています。
よくある質問(FAQ)
Q1.手術を受ける患者さんは全員剃毛しますか?
いいえ。毛が手術操作やドレッシング材の貼付を妨げない場合は、除毛しないことがあります。術式、手術部位、医師の指示、施設の手順を確認してください。
Q2.カミソリで剃ってはいけませんか?
カミソリは皮膚に微小な傷を作り、SSIのリスクを高める可能性があるため、一般に避けます。必要な場合は電気クリッパーなど、皮膚への損傷を抑えやすい方法を使用します。
Q3.剃毛・除毛はいつ行いますか?
必要な場合は、手術当日など手術に近い時期に行う方法が一般的です。ただし、手術室や病棟の運用、患者さんの状態によって異なるため、施設の手順に従います。
Q4.剃毛中に傷や出血を見つけたらどうしますか?
処置を中止または一旦止め、傷の状態を確認します。担当看護師や医師へ報告し、手術チームと対応を相談します。実施した部位と皮膚状態を記録してください。
Q5.看護学生が一人で剃毛してもよいですか?
実習では、患者さんの同意を得たうえで、指導者の監督と施設の手順に従って行います。手術部位の確認、感染対策、羞恥心への配慮が必要なため、自己判断で実施してはいけません。
まとめ
- 剃毛は「ていもう」と読み、手術部位の毛を整える処置である
- 毛が手術操作やドレッシング材の貼付を妨げない場合、一律に除毛する必要はない
- カミソリは皮膚に微小な傷を作る可能性があるため、必要時は電気クリッパーなどを検討する
- 実施前後に皮膚状態を観察し、発赤や傷があれば報告・記録する
- 患者さんの羞恥心、不安、尊厳に配慮し、必要性と範囲を説明してから行う
- 実際の方法と時期は、医師の指示と所属施設の手順を優先する
ユウのアドバイス
術前の剃毛は、以前は感染予防のために当然のように行われていました。しかし現在は、剃毛そのものが感染を防ぐとは限らず、必要のない除毛やカミソリの使用は皮膚を傷つける可能性があります。
看護学生さんは、「剃毛の手順」だけでなく、本当に必要なのか、どの方法なら患者さんの皮膚と尊厳を守れるのかまで考えて実施しましょう。
参考文献
- JHIサマリー日本語版:術前の除毛と手術部位感染症
- Cochrane:手術前の除毛と術後感染に関するシステマティックレビュー(多言語版)
- J-GLOBAL(科学技術振興機構):手術部位感染症低減のための術前除毛法の比較
- World Health Organization:Global guidelines for the prevention of surgical site infection, second edition
※この記事は看護学生の学習を目的とした一般的な解説です。剃毛・除毛の適応、範囲、時期、使用物品は、患者さんの状態、術式、医師の指示、所属施設の手順を必ず確認してください。


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