浣腸前に腹部を触診する理由|看護師・看護学生が確認したい観察ポイント
こんにちは、ユウです。
みなさんは、浣腸を実施する前に、なぜ腹部を触診するのか疑問に思ったことはありませんか?
「便が出ていないから浣腸をする」と考えがちですが、腹部の状態を確認せずに実施してよいのでしょうか。腹部が張っている場合や、痛みを訴えている場合は、どのように判断すればよいのでしょうか。
今回は、浣腸前に腹部を触診する理由と、実施前に確認したい観察ポイントについて解説します。
結論:浣腸前の腹部触診は「浣腸しても安全か」を確認するため
結論からいうと、浣腸前の腹部触診は、便の貯留を確認するだけではありません。
腹部の状態を確認し、次のことを判断するために行います。
- 浣腸を実施できる状態か
- 腹部膨満や便貯留があるか
- 圧痛や筋性防御などの異常がないか
- 浣腸を中止して医師へ報告すべき状態ではないか
ざっくり言うと、浣腸前には、
「便があるか」だけでなく、
「浣腸してよい腹部か」を確認する
ということです。
激しい腹痛、圧痛、腹膜刺激症状などがある場合は、触診を続けず、浣腸を中止して医師へ報告します。腸閉塞や腹膜炎など、浣腸を避けるべき状態を見逃さないためです。
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約10分
この記事でわかること
この記事では、次の内容を解説します。
- 浣腸前に腹部触診を行う理由
- 触診で確認したい腹部の所見
- 視診・聴診・打診・触診の順番
- 浣腸を中止して報告する腹部症状
- 看護師・看護学生が起こしやすい判断の間違い
根拠:腹部触診は、浣腸の適応と安全性を確認するために行う
日本看護技術学会 技術研究成果検討委員会 浣腸(GE)班の資料では、浣腸前に排便に関するフィジカルイグザミネーションを行い、腹部の視診・聴診・打診・触診を実施するとされています。
腹部触診では、次のような項目を確認します。
- 腹部の張り
- 腹部膨満
- 腹部の緊満
- 便の貯留や位置
- 圧痛
- 筋性防御などの腹膜刺激症状
また、激しい腹痛や圧痛、腹膜刺激症状がある場合は、重篤な腹部炎症の可能性があります。この場合は触診をやめ、医師へ報告することが示されています。
つまり、腹部触診には、
便があるかを確認する目的
浣腸をしてはいけない状態を見逃さない目的
の両方があります。
なぜ浣腸前に腹部を触診するのか
1.便の貯留や位置を確認するため
腹部を触診すると、便が貯留している可能性や、その位置を確認する手がかりになります。
もちろん、触診だけで便の状態を完全に判断できるわけではありません。しかし、排便状況や腹部膨満の有無などと合わせることで、浣腸の必要性を考える材料になります。
日本看護協会系の看護実践資料「安全なグリセリン浣腸の実施について」でも、浣腸前のアセスメント項目として腹部所見や直腸診が挙げられています。
2.腹部膨満や緊満の有無を確認するため
腹部が張っている場合は、単純に便が出ていないだけとは限りません。
腹部膨満の程度や、触れたときの硬さ、患者さんの苦痛の有無などを確認します。
特に、腹部が強く張っている、痛みが強い、触れることで痛みが増すといった場合は、予定どおり浣腸を進めるのではなく、いったん中止して状態を報告します。
ここで大切なのは、
腹部膨満があるから、すぐ浣腸をする
と考えないことです。
腹部の張りは、浣腸を行う前に、さらに確認が必要なサインになることがあります。
3.圧痛や腹膜刺激症状を確認するため
腹部を軽く触れたときに痛みがある場合は、圧痛の可能性があります。
また、触診によって腹壁が硬くなっている、筋肉が緊張している、触れることを強く嫌がるなどの所見があれば、腹膜刺激症状の可能性を考えます。
日本救急医学会の「急性腹症の診察 第Ⅶ章」では、浅い触診によって筋性防御、筋強直、反跳痛などの腹膜刺激徴候を確認することが示されています。
これらは、腸閉塞や腹膜炎などを含む急性腹症を考えるきっかけになります。
ただし、看護師が触診だけで病名を確定するわけではありません。
「浣腸を続けてよい状態ではないかもしれない」と考えたら、触診を続けず、医師へ報告することが重要です。
腹部の観察は、触診から始めない
腹部の診察は、一般的に次の順番で行います。
- 視診
- 聴診
- 打診
- 触診
腹部では、触診や打診による刺激で腸蠕動が変化し、聴診所見に影響する可能性があります。
そのため、触れて刺激する前に、まず腹部を目で見て、次に腸蠕動音を聴き、その後に打診、触診へ進みます。
医学書院の腹部診察に関する解説や、医学書院の記事「第6回 腹部の診察」でも、聴診を触診や打診より先に行う考え方が説明されています。
視診で見ること
- 腹部の膨らみ
- 左右差
- 皮膚の色や状態
- 腹部をかばうような姿勢
- 呼吸時の腹部の動き
患者さんが腹部を押さえている、体を丸めている、動くと痛がるといった様子がないかも観察します。
聴診で確認すること
聴診では、腸蠕動音を確認します。
ただし、聴診の結果だけで腸閉塞などを判断することはできません。排便状況、腹部膨満、疼痛、嘔気・嘔吐など、ほかの情報と合わせて考えます。
今回の調査結果では、腸蠕動音の具体的な正常値や異常値までは示されていないため、数値や回数だけで判断することは避けます。
打診で確認すること
打診では、腹部の音や鼓音などを確認します。
ただし、打診も腹部への刺激になるため、触診より前に行います。異常を感じた場合は、その所見だけで判断せず、患者さんの症状やほかの腹部所見と合わせて確認します。
触診で確認すること
触診では、まず浅く、やさしく腹部に触れます。
日本看護技術学会の資料では、浅い触診を約2cm程度から行うことが示されています。
確認するのは、次のような項目です。
- 腹部の張り
- 腹部膨満
- 腹部の硬さや緊満
- 便の貯留や位置
- 圧痛の有無
- 筋性防御などの腹膜刺激症状
いきなり強く押すのではなく、患者さんの表情や反応を見ながら、刺激を少なくして確認します。
浣腸を中止して医師へ報告する症状
浣腸前に次のような症状がある場合は、予定どおりに進めないことが重要です。
- 激しい腹痛
- 腹部を触れたときの圧痛
- 腹壁の硬さや筋性防御
- 腹膜刺激症状が疑われる所見
- 強い腹部膨満や緊満
- 触診によって苦痛が強くなる場合
特に、激しい腹痛、圧痛、腹膜刺激症状がある場合は、触診を続けずに中止し、医師へ報告します。
ここでのポイントは、「異常があるかもしれないけれど、便秘だから浣腸をしてみよう」と進めないことです。
腹部症状がある患者さんに対しては、浣腸を実施する前に、現在の症状や腹部所見を報告し、次の対応を確認します。
看護師・看護学生が起こしやすい判断の間違い
「排便がない=浣腸」と考える
排便がないという情報だけで、浣腸の実施を決めるのは不十分です。
排便状況に加えて、腹部膨満、痛み、腹部の硬さ、腸蠕動、全身状態などを確認します。
腹部の張りを「便がたまっている」と決めつける
腹部が張っていると、便が貯留していると考えやすくなります。
しかし、腹部膨満がある場合でも、腹痛や圧痛がないか、腹部が硬くないかを確認する必要があります。
「張っているから浣腸」ではなく、
張りの原因を確認してから、実施の可否を考える
強く押して確認しようとする
触診では、異常を見つけようとして強く押してはいけません。
まずは浅く触れ、患者さんの表情、痛みの訴え、腹壁の緊張などを確認します。強い痛みや異常な反応があれば、触診を続けずに報告します。
腹部の観察を触診だけで終わらせる
腹部の状態は、触診だけでは十分に評価できません。
視診、聴診、打診、触診を順番に行い、排便状況や腹痛の経過なども合わせて確認します。
実践ポイント
浣腸前は、次の順番で整理すると考えやすくなります。
1.排便状況を確認する
- 最終排便はいつか
- 便の量や性状はどうか
- 便が出にくい状態が続いているか
- 排便時に痛みや出血がないか
2.腹部症状を確認する
- 腹部の張りはあるか
- 腹痛はあるか
- 痛みはいつからあるか
- 吐き気や嘔吐はあるか
- 腹部を触れると痛みが増すか
3.腹部を順番に観察する
視診、聴診、打診、触診の順番で確認します。
触診では、浅くやさしく触れ、腹部の張り、膨満、緊満、便の貯留、圧痛、腹膜刺激症状を確認します。
4.異常があれば中止して報告する
激しい腹痛、圧痛、腹膜刺激症状がある場合は、浣腸を進めません。
触診を中止し、観察した内容を整理して医師へ報告します。
報告では、たとえば次のような情報を伝えます。
- 患者さんの訴え
- 痛みの部位と程度
- 腹部膨満や緊満の有無
- 触診時の反応
- 排便状況
- 腹部症状が出現した時期
筆者の体験談
私が看護師をしていた頃、浣腸の指示が出ている患者さんを担当したことがありました。
患者さんは数日排便がなく、「お腹が張っている」と話していました。最初に記録を見たとき、私は便が貯留しているのだろうと考え、予定どおり準備を進めようとしていました。
ただ、ベッドサイドで患者さんの腹部を見ると、いつもより体を丸めています。声をかけると、「さっきから少し痛い」と話されました。
私は最初、「便秘による痛みかもしれない」と考えました。でも、腹部の張りと痛みが同時にあることが気になり、すぐに浣腸を始めるのは迷いました。
そこで、患者さんに痛む場所や痛みの変化を確認し、腹部を強く押さずに状態を観察しました。触診を続けるよりも、いったん実施を止めて先輩看護師に相談することにしました。
先輩からは、「便秘だからと決めつけず、腹部症状があることを医師に報告しよう」と言われました。私は観察した内容を整理して報告し、その後の対応を確認しました。
この経験があってから、浣腸の準備をするときは、手技の準備だけを先に進めないようになりました。
「便が出ていないから浣腸をする」のではなく、「今の腹部は浣腸をしてよい状態なのか」と一度立ち止まって考えるようになったのです。
この体験談は医学的根拠を示すものではなく、浣腸前の観察と報告を臨床場面と結び付けて考えるためのものです。
まとめ
- 浣腸前の腹部触診は、便の貯留だけを確認するためではない
- 腹部膨満、緊満、圧痛、腹膜刺激症状などを確認する
- 腹部の観察は、視診・聴診・打診・触診の順番で行う
- 触診は浅く、患者さんの反応を見ながら実施する
- 激しい腹痛、圧痛、腹膜刺激症状がある場合は、触診を中止して医師へ報告する
- 浣腸前には「便があるか」だけでなく、「浣腸しても安全か」を判断する
浣腸は排便を促すための処置ですが、安全に実施するためには、実施前の腹部アセスメントが欠かせません。
FAQ
Q1.腹部が張っている場合は、浣腸をしてもよいですか?
腹部が張っているという情報だけで、実施の可否は判断できません。
腹部膨満に加えて、激しい腹痛、圧痛、腹膜刺激症状などがないかを確認します。異常がある場合は、浣腸を中止して医師へ報告します。
Q2.浣腸前の腹部触診では、何を確認しますか?
腹部の張り、膨満、緊満、便の貯留や位置、圧痛、筋性防御などを確認します。
排便状況や患者さんの訴えと合わせて判断します。
Q3.なぜ触診より先に聴診をするのですか?
触診や打診による刺激で腸蠕動が変化し、聴診所見に影響する可能性があるためです。
そのため、腹部は一般的に、視診・聴診・打診・触診の順番で観察します。
Q4.腹部を触れて痛がった場合はどうしますか?
圧痛が疑われる場合は、触診を続けません。
特に激しい腹痛や腹膜刺激症状がある場合は、浣腸を中止し、観察した内容を医師へ報告します。
参考文献
- 日本看護技術学会 技術研究成果検討委員会 浣腸(GE)班「排便に関するフィジカルイグザミネーションを行い、必要な情報を収集しましょう」2020年。https://jsnas.jp/system/data/20200403114455_a45v0.pdf
- 日本救急医学会「急性腹症の診察 第Ⅶ章」2015年。https://plaza.umin.ac.jp/jaem/docs/guideline2015_9.pdf
- 日本看護協会系・都道府県看護協会資料「安全なグリセリン浣腸の実施について」2021年。https://www.kana-kango.or.jp/uploads/media/2021/03/20210325154448.6.pdf
- 医学書院 医療情報サービス「部位別の身体診察:腹部」https://imis.igaku-shoin.co.jp/contents/reference/nsg_05315-04/5315/nsg_05315-04_a002z0008/
- 医学書院「第6回 腹部の診察」https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/old/old_article/n2000dir/n2396dir/n2396_14.htm
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