誤嚥リスクがある患者の経口摂取開始基準|看護師・看護学生が確認したいポイント
こんにちは、ユウです。
みなさんは、誤嚥リスクがある患者さんに対して、「いつから口から食べ始めていいの?」「むせなければ食べても大丈夫?」「嚥下反射があれば開始できる?」と迷ったことはありませんか?
経口摂取の開始は、嚥下機能だけを見て判断するものではありません。意識や呼吸状態、全身状態、咳嗽力、口腔内の状態などを合わせて考える必要があります。
今回は、誤嚥リスクがある患者さんの経口摂取を開始するときに確認したい条件と、看護師・看護学生が観察するポイントについて解説します。
結論:経口摂取は「嚥下機能だけ」で決めず、全身状態をそろえて評価する
誤嚥リスクがある患者さんに口から食べ始めてもらうかどうかは、次の項目を総合して判断します。
- 覚醒している
- 呼吸状態が安定している
- バイタルサインや全身状態が安定している
- 唾液や少量の水で嚥下反射がみられる
- 口腔内が清潔で湿潤している
- 咳嗽ができ、痰や誤嚥物をある程度排出できる
- 食べたいという意思や、食事に取り組める状態がある
反対に、意識が低下している、呼吸状態が不安定、発熱や痰の増加がある、咳嗽力が弱いといった場合は、嚥下反射があっても開始を急ぎません。
安全性の判断が難しいときは、まず口腔ケアや間接訓練を行い、必要に応じてVF(嚥下造影検査)やVE(嚥下内視鏡検査)などの客観的な評価につなげます。
また、開始する場合も、いきなり通常食を提供するのではなく、少量・安全な形態から段階的に進めることが基本です。
想定読了時間
約15分
この記事でわかること
この記事では、次の内容を解説します。
- 経口摂取開始時に嚥下機能だけでは不十分な理由
- 直接訓練や食事開始前に確認したい項目
- 意識・呼吸・咳嗽力・口腔内環境の見方
- 経口摂取を始めるときの段階的な進め方
- 看護師・看護学生が食事の前後に観察したいポイント
- VFやVEによる評価を検討する場面
根拠:誤嚥は嚥下機能だけで起こるわけではない
誤嚥とは、食べ物や水分、唾液などが食道ではなく気道へ入ることです。
誤嚥を防ぐには、食べ物を口から咽頭へ送り、嚥下反射によって気道を閉じる働きが必要です。
しかし、実際の摂取場面では、嚥下機能だけでなく次のような力も関係します。
- 食事に集中できる覚醒状態
- 呼吸を保ちながら嚥下する力
- 誤嚥したものを咳で排出する力
- 口腔内の細菌量や乾燥の程度
- 発熱や痰の増加など、感染や全身状態の変化
ざっくり言うと、
飲み込めるかどうかだけでなく、誤嚥したときに気道を守れる状態かどうかも確認する
ということです。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会の学習資料では、直接訓練の開始基準として、JCS 1桁、バイタルサインの安定、SpO₂ 95%以上、呼吸数20回/分未満、嚥下反射があること、口腔内が清潔であることなどが示されています。
ただし、これらは誤嚥しないことを完全に保証する検査ではありません。経口摂取を始めるための安全域を確認するための臨床的なチェック項目として考えます。
参考:日本摂食嚥下リハビリテーション学会「直接訓練の概念・開始基準・中止基準」
詳しい解説
経口摂取開始前に確認したい6つの項目
1.覚醒しているか
まず確認したいのは、患者さんが食事に取り組める程度に覚醒しているかです。
確認するポイントは、次のような内容です。
- 声かけに反応するか
- 目を開けていられるか
- 刺激し続けなくても覚醒を保てるか
- 食事の説明を理解できるか
- 口を開ける、飲み込むなどの指示に反応できるか
意識が低下していると、食べ物を口に入れても気づきにくくなります。また、嚥下反射が遅れたり、食後に口腔内へ食べ物が残ったりする可能性があります。
学会資料などでは、覚醒の目安としてJCS 1桁が示されています。
一方、経口摂取再開後の再誤嚥に関する研究課題情報では、食事開始時のGCS 14点以下が不良因子として報告されています。
ここで大切なのは、JCSとGCSの数値を機械的に当てはめることではありません。患者さんが食事の間、覚醒を保てる状態かを確認することです。
2.呼吸状態は安定しているか
嚥下と呼吸は、同じ気道を使う動作です。
食べ物を飲み込むときには、一時的に呼吸を止めて気道を守ります。そのため、呼吸状態が不安定な患者さんでは、食事によって呼吸への負担が増える可能性があります。
確認する項目には、次のようなものがあります。
- SpO₂
- 呼吸数
- 呼吸苦の有無
- 呼吸音
- 努力呼吸の有無
- 酸素投与量や呼吸管理の状況
日本摂食嚥下リハビリテーション学会の資料では、呼吸状態の目安としてSpO₂ 95%以上、呼吸数20回/分未満が示されています。
ただし、患者さんによって普段の呼吸状態や基礎疾患は異なります。数値だけでなく、普段との違いや呼吸の苦しさも一緒に見ます。
3.発熱や痰の増加がないか
食事を始める前に、全身状態が安定しているかを確認します。
- 発熱がないか
- 痰が増えていないか
- 痰の性状が変化していないか
- 倦怠感が強くないか
- バイタルサインが大きく変化していないか
- 呼吸状態が悪化していないか
発熱や痰の増加がある場合、すでに呼吸器感染や誤嚥性肺炎などが進行している可能性もあります。
このような状態で、嚥下反射だけを確認して食事を開始するのは危険です。
東京高輪病院のNST資料や、複数の摂食嚥下関連資料でも、バイタルサインが安定していること、発熱や痰の増加などがないことが経口摂取開始時の確認項目として整理されています。
4.口腔内が清潔で、乾燥していないか
口腔内には、さまざまな細菌が存在します。
口腔内が不潔な状態で誤嚥すると、細菌を含んだ唾液や食べ物が気道へ入る可能性があります。そのため、経口摂取を始める前には口腔ケアを行い、口腔内の汚れや乾燥を確認します。
観察したいのは、次のような項目です。
- 舌苔や食物残渣が多くないか
- 口腔粘膜が乾燥していないか
- 唾液が粘稠になっていないか
- 口内炎や出血がないか
- 口腔内の清潔が保たれているか
口腔内を湿潤させることは、唾液や食べ物をまとめて送り込むうえでも重要です。
つまり、口腔ケアは「食事の前に口をきれいにするだけ」ではありません。
誤嚥した場合の細菌負荷を減らし、口腔内の感覚や動きを整える準備
として考えることができます。
5.咳嗽力があるか
誤嚥を完全に防ぐことは難しい場合があります。
そこで重要になるのが、誤嚥したものを咳で外へ出す力です。
確認する際は、次のような点を見ます。
- 声かけで咳ができるか
- 咳の強さは十分か
- 痰を自力で出せるか
- 咳をしても痰が残っていないか
- 咳を繰り返すと疲労が強くならないか
咳が弱い場合や、痰を自力で排出できない場合は、気道に入ったものを外へ出しにくくなります。
病院NST資料や嚥下障害の指導マニュアルでも、十分な咳嗽が可能であることは、経口摂取開始時の確認項目として扱われています。
6.嚥下反射があるか
唾液や少量の水分などを利用して、嚥下反射の有無を確認します。
ただし、嚥下反射があるからといって、通常食を安全に食べられるとは限りません。
嚥下反射があっても、
- 反射が起こるまでに時間がかかる
- 食べ物を口腔内にため込む
- 喉に残ったものを処理できない
- 咳が弱い
- 呼吸状態が不安定
といった場合があります。
そのため、嚥下反射は重要な確認項目のひとつですが、単独で経口摂取の可否を決めるものではありません。
「むせないから安全」とは限らない
誤嚥すると、必ずむせると思っていませんか?
実際には、誤嚥してもむせないことがあります。これを不顕性誤嚥といいます。
むせがないため、一見すると安全に食べられているように見えるかもしれません。しかし、食後に次のような変化がみられる場合は注意が必要です。
- 湿った声になる
- 咳が増える
- 痰が増える
- SpO₂が低下する
- 呼吸苦が出る
- 食事後に強い疲労がみられる
- 発熱など全身状態の変化がある
したがって、食事中にむせたかどうかだけでなく、食事前後の変化まで含めて観察します。
経口摂取は少量から段階的に始める
全身状態や嚥下状態を確認して経口摂取を開始する場合でも、最初から通常量・通常食にするとは限りません。
経管栄養から経口摂取へ移行する手順の資料では、ゼリー1個程度から始め、その後に1食、さらに1日2〜3食へ進める段階が示されています。
これはあくまで移行手順の一例です。患者さんの嚥下機能や全身状態、医師・歯科医師・言語聴覚士などの評価に応じて、開始する量や食形態は調整されます。
最初は少量から始め、次のような様子を観察します。
- 口に入れたものを処理できているか
- 嚥下後に声が濡れていないか
- 咳込みや呼吸苦がないか
- 食事を続けることで疲れていないか
- 食後に痰や呼吸状態の変化がないか
安全性が不十分な場合は、無理に食事を進めず、口腔ケアや間接訓練、嚥下評価を優先します。
VF・VEによる評価が必要になることもある
ベッドサイドでの観察だけでは、誤嚥の有無や咽頭に残っている食べ物を十分に判断できないことがあります。
そのような場合に用いられるのが、VFやVEです。
VFとは
VFは、造影剤を含む飲食物を摂取し、X線透視で嚥下の様子を確認する検査です。
食べ物がどのように通過しているか、誤嚥や咽頭残留がないかなどを評価します。
VEとは
VEは、内視鏡を用いて、嚥下前後の咽頭の状態や分泌物、食べ物の残留などを確認する検査です。
日本耳鼻咽喉科関連の嚥下障害診療ガイドラインでは、嚥下障害の評価や治療方針の決定に、内視鏡検査などの客観的評価を組み合わせる考え方が示されています。
参考:
実践ポイント:看護師・看護学生が実践するときのポイント
経口摂取を開始する前には、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
食事前のチェック
- 意識
- 覚醒しているか
- 指示に反応できるか
- 食事中に覚醒を保てそうか
- 呼吸
- SpO₂や呼吸数はどうか
- 呼吸苦はないか
- 呼吸状態は普段と比べて変化していないか
- 全身状態
- 発熱はないか
- 痰が増えていないか
- バイタルサインは安定しているか
- 口腔内
- 食物残渣や舌苔が多くないか
- 乾燥していないか
- 口腔ケアができているか
- 咳嗽力
- 咳ができるか
- 痰を出せるか
- 咳が弱くないか
- 嚥下
- 唾液や少量の水分で嚥下反射があるか
- 嚥下に時間がかかっていないか
食事中・食後のチェック
食べ始めてからは、次の変化を観察します。
- 咳込み
- 湿性嗄声
- 痰の増加
- SpO₂の低下
- 呼吸苦
- 顔色の変化
- 食事中の強い疲労
- 食後の全身状態の変化
異常がみられた場合は、食事を続けるのか中止するのかを、院内の基準や指示に沿って判断します。判断に迷うときは、医師や言語聴覚士などへ報告・相談します。
よくある判断の間違い
「嚥下反射があるから開始できる」と考える
嚥下反射があっても、覚醒や呼吸、咳嗽力が不十分なことがあります。
嚥下反射は、開始を考えるうえでの一項目です。単独で判断しないようにします。
「むせないから大丈夫」と考える
むせがないことだけでは、安全とは判断できません。
声の変化、痰、SpO₂、呼吸状態なども確認します。
「お腹が空いているから食べさせる」と考える
患者さんに食べたい意思があることは大切です。
しかし、食べたい気持ちだけで開始を決めることはできません。意識、呼吸、嚥下、咳嗽力などをそろえて評価する必要があります。
いきなり通常食を始める
急性期で全身状態が不安定な患者さんに、いきなり通常食を始めるのは避けます。
開始する場合も、評価に基づいて少量・適切な食形態から段階的に進めます。
筆者の体験談:私が現場で迷った「むせない患者さん」のこと
私が看護師をしていた頃、経管栄養を行っていた患者さんの経口摂取を検討する場面がありました。
患者さんは目を開けていて、声かけにも反応します。「少し食べてみたい」と話していました。私は最初、「意識もあるし、本人の希望もある。少量なら始められるかもしれない」と考えました。
そのとき、少量の水分を試す場面を見ていると、明らかなむせはありませんでした。
「むせていないから、うまく飲み込めたのかな」と思ったのですが、しばらくすると声が少し濡れたように聞こえました。患者さん自身は苦しそうではありませんでしたが、私はそこで判断に迷いました。
先輩看護師に声をかけると、「むせだけで見ないで、声や呼吸ももう一度確認してみよう」と言われました。
患者さんのSpO₂や呼吸状態、痰の量、口腔内の様子を確認し、担当者へその変化を報告しました。その日は食事を進めず、口腔ケアと評価を優先することになりました。
当時の私は、食事を開始できるかどうかを「むせるか、むせないか」で考えがちでした。でも、その経験から、むせがない場面でも「本当に安全に飲み込めているのか」と立ち止まって見るようになりました。
今振り返ると、患者さんの「食べたい」という気持ちを大切にしながらも、開始を急がない判断が必要な場面があることを学んだ経験でした。
体験談は医学的根拠ではありません。患者さんの状態や施設の基準に応じて、医療チームで判断してください。
まとめ
今回の記事のポイントをまとめます。
- 経口摂取の開始は、嚥下機能だけで判断しない
- 意識、呼吸、全身状態、口腔内環境、咳嗽力、嚥下反射を確認する
- 覚醒が不十分、呼吸状態が不安定、発熱や痰の増加がある場合は開始を急がない
- 「むせないから安全」とは限らない
- 開始する場合は、少量・適切な食形態から段階的に進める
- 食事前だけでなく、食事中・食後の声、咳、痰、SpO₂、呼吸状態を観察する
- ベッドサイドで判断が難しい場合は、VFやVEなどの客観的評価につなげる
経口摂取を始めるかどうかで迷ったときは、
「飲み込めるか」だけでなく、「今、安全に食事へ取り組める全身状態か」
という視点で確認することが大切です。
FAQ
Q1.嚥下反射があれば、すぐに食事を開始できますか?
いいえ。嚥下反射があることだけでは判断できません。
意識、呼吸状態、バイタルサイン、口腔内環境、咳嗽力などを合わせて評価します。状態が不安定な場合は、嚥下反射があっても開始を急ぎません。
Q2.むせなければ誤嚥していないと考えてよいですか?
いいえ。
むせを伴わない誤嚥もあるため、湿性嗄声、痰の増加、SpO₂低下、呼吸苦などを合わせて確認します。
Q3.経口摂取は何から始めますか?
患者さんの状態や嚥下評価によって異なります。
移行手順の資料では、ゼリー1個程度から始め、その後に1食、1日2〜3食へ段階的に進める例が示されています。ただし、実際の開始量や食形態は、医療チームの評価と院内の方針に従います。
Q4.経口摂取開始前に口腔ケアを行うのはなぜですか?
口腔内を清潔・湿潤に保つためです。
口腔内の汚れや細菌を減らし、乾燥を改善することで、経口摂取に向けた環境を整えます。
Q5.ベッドサイドで判断できないときはどうしますか?
VFやVEなどの嚥下評価を検討します。
嚥下の様子や誤嚥、咽頭残留などを客観的に確認し、食形態や摂取方法を検討する材料にします。
この記事の学習を深めるおすすめ書籍
今回の記事について、さらに理解を深めたい方におすすめの書籍を紹介します。
フィジカルアセスメント 根拠からわかる!実習で実践できる!
著者:中村充浩
出版社:照林社
フィジカルアセスメントの方法と根拠が学べ、意識・呼吸・咳嗽力・口腔内など経口摂取開始前に看護師が観察すべき項目の評価力を高められるため。
看護の学びなおし バイタルサイン
著者:白坂友美
出版社:照林社
バイタルサイン(SpO₂、呼吸数、意識など)を臨床的に読み解く力を養えるため、摂取開始の判断基準に直結する。
教科書には書いていない! 呼吸と呼吸器のひ・み・つ
著者:大口祐矢
出版社:秀和システム
呼吸・SpO2や酸素療法、呼吸管理をやさしく解説しており、嚥下と呼吸の関係や呼吸状態評価の理解に役立つため。
※本ページにはPRが含まれています。
実習記録、AIにちょっと手伝ってもらおう!
実習記録って、書き始めるまでが大変ですよね…😢
そんなときは、「AI看護学生 あいちゃん」を使ってみてください!
実習目標や看護計画など、あなたの「どうしよう…」を一緒に考えてくれます。
\ 看護学生なら無料!使ってみてね! /
LINEで友だち追加するだけ!
実習中の「ちょっと困った…」を、あいちゃんに相談してみよう😊


