こんにちは、ユウ塾長です。高齢の患者さんに「聞こえますか?」と尋ねて、「はい」と返事があれば、聞こえに問題はないと考えてよいのでしょうか?聞こえにくさは、本人が遠慮して伝えなかったり、補聴器を着けていても十分に聞き取れなかったりすることがありますよね。今回は、難聴を見逃さないための確認方法と、伝わりやすいコミュニケーションの工夫を一緒に整理します。
結論:実際の会話で確認し、伝わる条件を共有する
高齢者の難聴は、「聞こえますか」と尋ねるだけで判断せず、本人への具体的な質問、会話中の観察、簡便な確認を組み合わせて評価しましょう。
ベッドサイドでの確認は、聴力検査や診断の代わりではありません。聞こえにくさが疑われるときや、会話・療養上の説明に支障があるときは、医師に報告し、耳鼻咽喉科などへの相談につなげます。
コミュニケーションでは、大声で話すことだけに頼らず、正面から顔を見せ、周囲を静かにし、短く区切って伝え、本人の言葉で理解を確かめることが基本です。「どの条件なら伝わるのか」を記録し、チームで共有してくださいね。
この記事でわかること
この記事では、次のポイントを解説します。
- 高齢者の難聴が見逃されやすい理由
- 本人への質問や会話中の観察、簡便な確認方法
- 聞き取りやすくする環境と話し方の工夫
- 補聴器の使用状況や記録、多職種連携のポイント
結論の根拠:聞こえにくさは安全や意思決定にも関わる
聞こえにくさがあると、検査や処置の説明、服薬の説明、転倒予防の声かけなどが伝わりにくくなることがあります。また、患者さんが痛みや体調の変化を伝えにくくなる可能性もあります。難聴への対応は、会話をしやすくするだけでなく、安全な療養生活や本人の意思決定を支える看護実践の一つです。
日本看護科学会誌に掲載された高齢難聴者への看護実践に関する研究では、簡便なスクリーニングや環境調整、会話の工夫、専門職との連携が取り上げられています。また、高齢難聴患者が看護師に期待するコミュニケーションに関する研究では、会話の途中で確認できることや、個別の配慮が期待されていると報告されています。
一方、看護師による高齢者の聴覚評価に関する研究資料では、聴覚の評価が経験や主観に頼りやすく、観察や測定による情報が不足していたことが課題として示されています。「難聴あり」とだけ記録するのではなく、どのような話し方や環境で伝わるのかを具体的に確かめることが大切です。
厚生労働省の資料では、会話が聞き取りにくい、聞き返す、聞き漏らすといったことが、聞こえの問題に気づく手がかりとして紹介されています。聞こえにくさがある場合には、耳鼻咽喉科で相談し、聴力検査を受けることも勧められています。
高齢者の難聴が見逃されやすい理由
難聴があっても、本人が自覚していないことがあります。また、「何度も聞き返すのは申し訳ない」と感じたり、周囲に合わせてうなずいたりして、聞き取れなかったことを伝えない場合もあります。
聞き返しや表情の読み取りなど、本人が自分なりの工夫をしていることもあります。そのため、静かな場所では会話ができていても、病室や食堂など周囲の音がある場所では聞き取りにくい、といった状況が見逃されることがあります。
返答が質問と合わないときも、すぐに認知機能の問題だと決めつけないようにしましょう。難聴のほか、失語、せん妄、視力低下、言語の違いなども影響することがあります。まずは話す位置や環境を変えて、伝わり方が変わるか確かめてみてください。
きこえを確認する方法
本人には具体的に尋ねる
「耳は聞こえますか?」だけでは、本人が答えにくかったり、困っている場面が分かりにくかったりします。生活の中での様子を、具体的に尋ねてみましょう。
- 家族との会話で、聞き返すことはありますか
- 周囲が騒がしい場所では、会話を聞き取りにくいですか
- テレビの音量は、以前より大きくなりましたか
- 電話で聞き取りにくいことはありますか
- 補聴器を使っていますか
- 聞こえにくいときは、どのようにしていますか
本人が使っている対処法を尋ねると、「相手の顔を見る」「静かな場所に移動する」など、伝わりやすい条件を知る手がかりになります。
会話中の様子を観察する
話しかけたときの反応だけでなく、会話が続いている間の様子も見てみましょう。次のような様子があれば、難聴の可能性を考えるきっかけになります。
- 呼びかけへの反応が遅い、または反応がない
- 何度も聞き返す
- 話し手の顔や口元を強く見る
- 質問と合わない返答をする
- 静かな場所では会話できるが、雑音があると難しい
- うなずくだけで会話を終えようとする
- 指示を聞き違える、または行動が説明と一致しない
ただし、これらの様子だけで難聴と診断することはできません。返答が合わないときは、正面から、短い言葉で、周囲の音を減らして話してみます。文字や図を加えたときに理解しやすくなるかも確認してください。
簡便な確認は「スクリーニング」として行う
指こすりや電子体温計の終了音などを使った簡便な確認方法は、難聴の診断ではなく、追加の評価が必要かを考えるためのスクリーニングです。日本看護科学会誌の研究や聴覚評価に関する研究資料では、こうした方法が検討されています。
実施するときは、できるだけ静かな環境を選び、補聴器の使用状況を記録します。左右を確認できる方法では、片耳ずつ反応をみます。反応がなかった場合も、それだけで難聴と判断せず、確認した条件や反応を記録して、必要に応じて医師へ相談しましょう。
なお、特定の方法を使う場合は、研究で検討された手順や施設内の実施方法を確認してください。確認の仕方が人によってばらつくと、結果を比較しにくくなります。
気になる症状があれば医師へ報告する
聞こえにくさが続いている場合や、会話・療養上の説明に支障がある場合は、耳鼻咽喉科への相談を検討します。急に聞こえにくくなった、片耳だけ聞こえにくい、耳の痛み・耳漏・耳鳴り・めまいを伴うときは、加齢による変化と決めつけず、早めに医師へ報告してください。
ベッドサイドでの確認で分かるのは、あくまでその場での反応です。聴力の診断や補聴器の調整は、耳鼻咽喉科での評価につなげましょう。
聞き取りやすいコミュニケーションの工夫
まず、話しやすい環境を整える
話す前に、テレビやラジオなど不要な音を減らします。相手の正面に立つか座り、顔が見える明るさを確保しましょう。逆光や口元が見えにくい位置は避けます。
周囲に複数の人がいると、誰の話を聞けばよいのか分かりにくくなることがあります。できるだけ話し手を一人にし、患者さんと同じ目線で話してみてください。こうした環境調整は、高齢難聴者への看護実践に関する研究でも支援の要素として整理されています。
大声よりも、短く区切って伝える
聞こえにくそうだからといって、急に大声で話すのは避けましょう。大きな声や不自然に誇張した発音は、かえって聞き取りにくさや不快感につながる場合があります。
次のように、話し方を工夫してみてください。
- 顔を見せて、普通の声か少し大きめの声で話す
- ゆっくり、短い文で伝える
- 一度に一つの内容を伝える
- 大事な言葉をはっきり伝える
- 必要に応じて、別の言葉に言い換える
- 話題を急に変えない
たとえば、「検査の説明をします。先にこの書類を一緒に確認しましょう」と短く区切ります。一度に多くの内容を伝えるより、相手の反応を見ながら一つずつ進めるほうが、伝わったか確認しやすくなります。
「分かりましたか?」だけで終わらせない
「分かりましたか?」と尋ねると、聞き取れていなくても「はい」と答えることがあります。理解を確かめたいときは、患者さんを試すような聞き方ではなく、説明が伝わったかを一緒に確認する形にしましょう。
たとえば、次のように尋ねられます。
- 「確認のため、これから何をするか教えていただけますか」
- 「薬を飲むタイミングは、どのように聞こえましたか」
- 「説明で分かりにくかったところはありますか」
説明内容を言い返してもらうことは、患者さんの理解力を評価するためではありません。こちらの伝え方が適切だったかを確かめ、必要なら説明を調整するためです。
筆談や図を使うときは、本人に合わせる
会話だけでは難しいときは、筆談や図、指差し表などを取り入れます。ただし、視力低下や手の動かしにくさ、読み書きの状況などによって、使いやすい方法は変わります。
文字を書くなら大きく読みやすくし、薬の名前や日時など大切な内容は書面でも確認できるようにするとよいでしょう。文字より図やジェスチャーのほうが伝わりやすい方もいます。本人にとって使いやすい方法を一緒に探してみてください。
補聴器は「着けているか」だけで判断しない
補聴器を使用していても、必ず会話が聞き取れているとは限りません。持参しているかだけでなく、作動しているか、左右を間違えていないか、本人が装着できるか、会話のときに使っているかも確認しましょう。
耳の痛みや耳漏などがないか、補聴器を使っても聞き取りにくい場面があるかも尋ねます。電池切れや装着不良、機器の故障などが疑われるときは、看護師だけで判断して調整せず、家族や耳鼻咽喉科などへの相談を検討してください。
聴力レベルは、耳鼻咽喉科での聴力検査などをもとに評価します。調査資料では、研究対象者の分類として40~69 dBの聴力レベルが扱われていますが、これは看護師がベッドサイドで難聴を診断する基準ではありません。また、厚生労働省の資料で紹介される「80歳で30 dBを目標とする」という考え方も、啓発・健康維持の目標として示されたものです。どちらも、目の前の患者さんを一律に判定する基準として使わないようにしましょう。
看護記録には「伝わる条件」を残す
「難聴あり」だけでは、次に関わるスタッフがどのように声をかければよいか分かりません。実際に確認できたことを、具体的に記録しましょう。
- 左右差や、反応があった声の大きさ
- 聞き取りやすい距離や話す位置
- 周囲の音による影響
- 補聴器の使用状況と作動状況
- 筆談や図が役立ったか
- 理解をどのような方法で確認したか
- 本人が希望するコミュニケーション方法
- 相談・受診につないだ状況
たとえば、「難聴あり」だけでなく、「正面からゆっくり話すと理解しやすい。補聴器を使用。検査説明は筆談を併用し、本人の言葉で予定を確認した」と記録すると、次のスタッフも対応しやすくなります。
入院時や初回訪問時には、本人の聞こえの自覚、補聴器の使用、家族との会話、聞き取りやすい環境なども確認しておきましょう。老年看護学領域の研究でも、入院時から会話の状況や支援体制、補聴器の使用状況を把握する必要性が示されています。
訪問看護師を対象とした難聴ケアに関する研究では、難聴の判断や補聴器、専門職との連携などに困難があることが報告されています。耳鼻咽喉科医、言語聴覚士、家族や介護職などと情報を共有し、看護師個人の経験だけに頼らない体制を整えることも大切です。
臨床で迷ったときの確認の順番
返答が合わない、説明した内容と行動が一致しないと感じたら、次の順番で確認してみましょう。
- 正面から話しかけ、顔が見える位置に移動する
- テレビなど不要な音を減らす
- 短い文で、一つずつ伝える
- 筆談や図など、別の方法を加える
- 本人の言葉で内容を確認する
- それでも難しい場合は、難聴以外の要因も含めて医師やチームに相談する
この順番は、難聴だけが原因だと決めつけるためのものではありません。まず伝わりやすい条件を整えたうえで、必要な評価や支援につなげるための手がかりです。
臨床場面を一緒に考えてみましょう
検査前の説明をしている場面を思い浮かべてみてください。患者さんは「分かりました」とうなずきますが、移動の声かけをしても動こうとしません。ここで「説明を理解できていないのかな」と考えたくなるかもしれません。
まず、正面から短く話してみます。それでも反応が変わらなければ、周囲の音を減らし、筆談で予定を示してみます。すると患者さんが書かれた内容を指差し、うなずくことがあります。こうした場面では、返答や行動だけを見るのではなく、「どの伝え方なら意思が確認できるのか」を探すことが、次の対応につながります。
まとめ
高齢者の難聴を見逃さないためには、「聞こえますか」と尋ねるだけで終わらせず、本人への具体的な質問と会話中の観察を組み合わせましょう。簡便な確認はスクリーニングであり、診断には耳鼻咽喉科での評価が必要です。
コミュニケーションでは、大声に頼らず、顔が見える位置で、静かな環境を整え、短く区切って話し、本人の言葉で理解を確認することがポイントです。補聴器の有無だけで聞こえを判断せず、「どの条件なら伝わるのか」を具体的に記録して、チームで共有してくださいね。
FAQ
補聴器を着けていれば、聞こえの確認は不要ですか?
いいえ。補聴器を着けていても、作動状況や装着の状態、聞き取りにくい場面によって会話が難しいことがあります。実際の会話で伝わり方を確認しましょう。
大きな声で話せば伝わりやすくなりますか?
大きな声だけでは、かえって聞き取りにくくなったり、不快感につながったりする場合があります。正面から顔を見せ、ゆっくり短く話し、必要に応じて筆談なども使ってみてください。
ベッドサイドでの簡便な確認で、難聴と診断できますか?
できません。指こすりなどの簡便な確認は、追加の評価が必要かを考えるためのスクリーニングです。難聴の診断や補聴器の調整は、耳鼻咽喉科での評価につなげます。
聞こえにくさを記録するとき、何を書けばよいですか?
「難聴あり」だけでなく、聞き取りやすい位置や話し方、補聴器の状況、筆談の有効性、本人が希望する方法などを具体的に記録すると、次のスタッフの対応に役立ちます。
参考文献
- 日本看護科学会誌掲載資料「高齢難聴者への看護実践に関する研究報告」『日本看護科学会誌』43巻、408–418頁、2023年。資料
- 「高齢難聴患者が看護師に期待するコミュニケーション」『日本老年看護学会誌』。資料
- 桜美林大学「高齢難聴患者と看護師とのコミュニケーションの研究」学位論文要旨、2017年。資料
- 「高齢難聴者への看護実践に関する研究」『日本老年看護学会誌』。資料
- 「Challenges Faced by Visiting Nurses…」『日本看護科学会誌』、2024年。資料
- 厚生労働省「『聞こえる』を大切にする」2024年。資料
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