手術による感染は次の2種類があります。
手術部位感染(SSI: Surgical Site Infection)と遠隔部位感染(RI: Remote Infection)と呼ばれるものです。
一般的な術後感染症の予防対策としてはSSI(手術部位感染)の減少を目的として行われるため、ここではSSIを中心に説明します。術後の感染症は生命にかかわることもあります。術後感染症の原因と対策をしっかり学びましょう。
術後感染症
1.術後感染症とは
基本的には術中に創部が汚染されて細菌が入り感染してしまうことです。
2.出現しやすい時期
手術部位感染(SSI: Surgical Site Infection)
手術部位感染(SSI: Surgical Site Infection)は、術後30日以内(何らかの人工物が挿入されている手術では1年以内)に発生する手術操作の及ぶ部位の感染のことです。
遠隔部位感染(RI: Remote Infection)
遠隔部位感染(RI: Remote Infection)は、呼吸器感染症、尿路感染症、カテーテル関連血流感染症(CRBSI: Catheter Related Blood Stream Infection)など、手術に関連はあるものの手術侵襲が直接加わっていない部位の感染症のことで、出現時期はさまざまです。
3.原因
SSIは、手術操作による細菌の押し込みや体内に留置される異物(縫合糸や人工臓器、ドレーンなど)によって、手術を行った部分に細菌が入って増殖することで起こります。
細菌は、皮膚の表面や皮下組織にある皮脂腺や汗腺などに存在しています。さらに、空気中に浮かんでいる粒子にも存在します。従って、手術を行った部位には必ず細菌が存在しているといっても過言ではありません。
術後感染症のおもな起因菌は次の表のとおりです。
術後感染症の主な起因菌 |
|
グラム陽性球菌 | ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌) 連鎖球菌(化膿性連鎖球菌、腸球菌、肺炎球菌) |
グラム陰性桿菌 | 腸内細菌群(大腸菌、クレブシエラ、セラチア、変形菌) 緑膿菌 |
嫌気性菌 | 破傷風菌、クロストリジウム・ディフィシル、バクテロイデス |
これらの細菌からの感染症を予防するために、術前に抗菌薬の投与が行われます。
しかし、術後感染の約70%は、予防投与抗菌薬の耐性菌によって発症するといわれています。
その代表ともいえるのが、高度耐性菌のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)です。
この菌は、人の鼻の中や咽頭、皮膚などにいて、消毒剤への抵抗性が強いので、身の回りから消し去ることがとても困難です。
健康な人には何の害もありませんが、術後の免疫力が弱い状態の身体に入ると、術後の回復が遅れる可能性があります。
4.症状
手術部位感染(SSI)を起こすと、身体には以下のような変化が起こります。
バイタルサイン
38℃以上の発熱、頻脈、血圧や酸素飽和度の低下、呼吸数の増加、意識状態の変化、冷汗など
血液データ
白血球数(WBC)やCRPの上昇
創部の状態
創部の発赤、腫脹、熱感があったり、膿や滲出液がみられる。さらに、ドレーンからの排液が混濁することもある。
これらのさまざまな変化があるため、SSIの早期発見には全身状態の観察が欠かせません。
5.術後感染症への対応
SSIを予防する目的として、手術開始前に抗菌薬を投与することを予防投与といい、多くの手術でその有用性が証明されています。手術中に入る細菌の量を患者さんの免疫力で対応できるレベルまで減らすことを目的としています。
皮膚切開による感染症においては、皮膚に常在する黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌が問題になります。抗菌薬としては、セフェム系抗菌薬(セファゾリンナトリウムⓇなど)が使用されます。
下部消化管の切開を伴う手術では大腸菌などの腸内細菌も問題になるため、セフェム系抗菌薬(パンスポリンⓇやセフメタゾールナトリウムⓇなど)が使用されます。
また、嫌気性菌のバクテロイデスには、カルバペネム系抗菌薬(メロペンⓇやフィニバックスⓇなど)が使用されます。
MRSA感染症に対しては、バンコマイシンⓇを使用します。
6.手術部位感染の分類
手術部位感染(SSI)は、感染した部位によって次の3つに分類されます。
①表層切開創SSI 、②深部切開創SSI、③臓器・体腔SSI
7.術後に感染が起こりやすい理由
免疫力の低下
加齢に伴う繊毛運動や咳嗽反射の低下による
気道クリアランスの機能低下、IgA抗体の分泌低下がみられ、呼吸器感染症に罹患しやすいです。
さらにTリンパ球の産生能力も低下し、細胞性免疫の低下も生じます。
細菌やウイルスへの侵入に対する免疫機能が低下し感染症を発症しやすく、また治癒しにくくなります。
活動量低下
活動量が減る事で、基礎代謝も減少し、筋力も減少します。タンパク質も失われ、皮膚の障害などを引き起こすこともあります。全身衰弱により抵抗力が低下し、感染を引き起こしやすくなります。
心理状態が与える影響として、身体を動かさないことによる刺激の減少やストレスにより、免疫力が低下します。
食事量の低下
食欲不振などの状況が続くと、栄養障害が起こります。エネルギー補給が不足し、特に血清蛋白が減少して皮膚の障害などを引き起こすこともあります。
全身衰弱により抵抗力が低下し、感染を引き起こしやすくなります。また、低栄養あるいは低タンパク血症は創傷治癒を遅延させてしまいます。
とくにタンパク質は組織を維持したり新しい組織を形成するのに重要な役割を果たしています。またビタミンやミネラルの不足もコラーゲンの合成化を障害し、創傷治癒を遅延させます。
高血糖状態
とくに既往や持病に糖尿病(DM)がある方の場合は注意です。高血糖状態は、好中球やマクロファージの食菌作用や異物の認識作用を阻害し、免疫が低下し、感染症に罹患しやすくなります。
8.全身性炎症反応症候群: SIRS(サーズ)
重篤な感染症に「敗血症(Sepsis)」があります。
敗血症とは、なんらかの感染症があり、生体に全身性炎症反応症候群(SIRS: Systemic Inflammatory Response Syndrome)が認められる状態を指します。
SIRS(全身性炎症反応症候群)とは、手術および感染、外傷や熱傷などの侵襲を受けた局所でサイトカインが産生され、それが血中に吸収されて全身を循環し、全身的な炎症反応を引き起こしている状態をいいます。
SIRSは、生命維持に必要な複数の臓器の機能が障害された状態である多臓器不全(MOF: Multiple Organ Failure)を引き起こします。
多臓器不全になると命に関わることも多いため、SIRSの段階で集中的に治療を行ない、多臓器不全への移行を阻止することが重要です。
全身性炎症反応症候群(SIRS)診断基準
下記の4項目のうち2項目を満たした場合、SIRSと診断されます。
1.体温 38.0℃以上あるいは36.0℃以下
2.心拍数 90/分以上
3.呼吸数 20回/分以上またはPaCO2が32Torr以下
4.白血球数 12,000/μℓ以上または4,000/μl 以下、もしくは未熟顆粒球が10%以上
9.術後合併症まとめ
それぞれの術後合併症について詳しくまとめましたのでご活用ください。 術後合併症の種類と出現時期
10.オススメ書籍「術前・術後ケアの基本」
根拠がわかる看護義塾から2冊目の本が出ました!
このブログに書かれていることがこの1冊にギュギュっとまとまっています。
術前・術後ケアはこれ1冊でOK!
⇒ 詳細はこちら
ユウのアドバイス
術後感染症は術後に最も気を付けなければいけないことの一つ。特に、術前に糖尿病があるかどうかを調べるのは糖尿病だと感染リスクがすごく高まるからなのです。創部の頻回の観察や治癒状況、発赤、疼痛、膿瘍の有無などもしっかりと観察していきましょうね!!(*^ω^*)
次 ⇒ 術後合併症 ~呼吸器合併症~
コメント