こんにちは、ユウ塾長です。患者さんから「どうせ、あなたもいなくなるんでしょう」と言われたとき、どこまで寄り添えばよいのか迷ったことはありませんか?不安を受け止めたい一方で、「絶対にそばにいます」と約束するのは違う気がする。ここは悩みやすいところですよね。今回は、見捨てられ不安を訴える患者さんへの関わり方と、安全を守るための対応を一緒に整理します。
結論:不安を受け止め、約束できる範囲をチームでそろえる
見捨てられ不安を訴える患者さんには、感情を否定せず受け止めながら、看護師個人の過剰な約束や例外的な対応に頼らず、チームで一貫した枠組みを保つことが大切です。
まず、自傷や自殺につながる危険がないかを確認します。そのうえで、不安のきっかけや患者さんの気持ちを一緒に整理し、できること・できないこと、次に話せる時間、つらくなったときの対応を具体的に伝えましょう。
「絶対に見捨てません」と約束するより、「次は○時に担当者が話を聞きます」「今すぐ危険を感じたらナースコールで知らせてください」のように、実行できる対応を示す方が現実的です。危険な行動には安全確保と明確な対応が必要ですが、不安や怒りそのものを責める必要はありません。
この記事でわかること
この記事では、次のポイントを解説します。
- 見捨てられ不安を訴える患者さんへの基本的な考え方
- まず確認したい安全と、不安のきっかけ
- 共感と境界設定を両立させる声かけ
- チームで対応をそろえる方法と記録の工夫
結論の根拠:共感だけでも、線引きだけでもない
国内の精神科熟練看護師を対象とした研究では、患者さんを受け止め、共感しながらも、治療的な距離を保ち、チームで一貫して関わることが示されています。「境界性パーソナリティ障害患者に対する精神科熟練看護師の看護実践」で報告された内容は、患者さんの苦痛に寄り添いながら、看護師個人の判断で対応を大きく変えないことの大切さを示しています。
また、福島県立医科大学看護学部紀要の研究「境界性パーソナリティ障害患者の治療枠組みと看護師の役割」では、病棟のルールや生活上の目標、治療に関する取り決めなどを、看護師がチームで支える役割が取り上げられています。
見捨てられ不安が生じる場面では、否定的な受け止めや、相手から距離を取る行動が関連する可能性も報告されています。ただし、これは大学生を対象とした研究で、臨床の患者さん全体にそのまま当てはめられるわけではありません。「見捨てられ場面における見捨てられスキーマと思考・感情・行動との関連」の結果は、患者さんの行動を決めつける根拠ではなく、背景を考える手がかりとして扱いましょう。
これらは看護実践や対人場面に関する研究であり、個別の対応が必ず症状を改善させると証明するものではありません。患者さんの状態や施設の手順に合わせ、チームで検討することが必要です。
見捨てられ不安は「困らせる行動」と決めつけない
境界性パーソナリティ症状では、対人関係や感情が不安定になり、見捨てられることへの強い恐怖が、相手に強く近づく、怒る、距離を取る、援助を拒むといった行動に表れることがあります。国内の見捨てられ場面に関する研究でも、見捨てられ場面での否定的な解釈や対人行動との関連が検討されています。
そのため、表面に出た要求や怒りだけを見るのではなく、「何が起きて、どんな不安が強くなったのだろう」と考えてみましょう。ただし、行動の背景を理解することと、危険な行動を認めることは別です。感情は受け止め、患者さんや周囲の安全を脅かす行動には明確に対応します。
また、診断名だけで患者さんの言動を説明しないことも大切です。見捨てられ不安があるように見えても、その人が何に不安を感じているか、どのような支援を必要としているかは、個別に確認する必要があります。
まず安全を確認し、不安のきっかけを整理する
「見捨てられそうで怖い」という訴えがあったときは、安心させる言葉を急ぐ前に、自傷や自殺につながる危険がないかを確かめます。落ち着いた声で、短く具体的に尋ねてみましょう。
- 「今、自分を傷つけたい気持ちはありますか」
- 「自殺について考えていることはありますか」
- 「具体的な方法や準備を考えていますか」
- 「今の環境で、安全に過ごせそうですか」
状況に応じて、過去の自傷・自殺企図、現在の衝動、薬物やアルコールの使用、支援してくれる人の有無なども確認します。危険が疑われる場合は一人で抱え込まず、施設の手順に従って医師や責任者、チームへ速やかに報告してください。具体的な観察方法や対応は、施設の規程や医師の判断に沿って決めます。
安全を確認したら、不安が強まったきっかけを一緒にたどります。担当者の交代、面会や電話の終了、予定の変更、他の患者さんへの対応など、患者さんが「拒否された」「置いていかれる」と受け取った出来事がなかったかを確認します。
共感と境界設定をセットで伝える
ここでのコツは、気持ちを受け止めたあとに、対応できる範囲を具体的に伝えることです。
たとえば、次のように声をかけられます。
「担当が変わることで、置いていかれるように感じて不安なのですね。今は10分お話しできます。その後は別の業務に戻りますが、次は○時に担当者が様子を確認します。」
「不安なのですね」と感情を言葉にする一方、「いつでも対応します」とは約束していません。できることとできないことを伝え、次の予定を示しています。
要求が強いときも、「応じるか、拒否するか」の二択にしないようにしましょう。患者さんが何を求めているのかを確かめたうえで、可能な対応と代わりの方法を一緒に考えます。
「今すぐそばにいてほしいほど不安なのですね。私は今から10分お話しできます。話し終わったあとにつらくなった場合は、まずナースコールで知らせてください。」
一方、暴言や自傷などの危険な行動がある場合は、感情への共感と安全上の限界を分けて伝えます。「不安を感じることは否定しません。ただ、自分や他の人を傷つける行動には、安全を守るための対応が必要です」と、落ち着いて説明しましょう。
気持ちを言葉にし、別の行動を一緒に探す
患者さんが強い不安や怒りを行動で表しているときは、まず、その感情を言葉にできるよう手助けします。福岡県立大学紀要の研究「境界性パーソナリティ障害患者の怒りへの介入」では、見捨てられ不安などを受け止め、感情の言語化や、行動化に代わる選択肢を探る関わりが取り上げられています。
たとえば、次のように尋ねてみましょう。
- 「何があったときに、置いていかれると感じましたか」
- 「そのとき、どんなことが頭に浮かびましたか」
- 「今の不安を言葉にすると、どんな感じでしょう」
- 「自分を傷つける以外に、今を乗り切る方法を一緒に考えてみませんか」
患者さんが怒りを言葉で伝えられたときは、そのことを具体的に認める声かけもできます。「今、怒っていることを言葉で伝えてくれましたね」と伝えることで、行動ではなく言葉で表現した点に目を向けられます。
担当交代や退院は、見通しを具体的に伝える
担当者の交代、面会の終了、退院など、別れや変化を伴う場面では、急に話を終わらせず、予定を早めに共有しましょう。次の点を、分かる範囲で具体的に伝えます。
- いつ交代するのか
- 次に誰が対応するのか
- 次回に話す予定はいつか
- つらくなったとき、どのように知らせるのか
- 退院後はどこに相談できるのか
「大丈夫ですよ」とだけ伝えるより、「次は○時に担当者が来ます」と見通しを示す方が、患者さんが次の行動を考えやすくなります。退院後の連絡先や緊急時の対応は、施設や地域の支援体制に沿って確認してください。
チームで対応をそろえる
看護師によって説明や対応が異なると、患者さんの不安や不信を強めることがあります。熟練看護師の実践に関する研究や、治療枠組みと看護師の役割に関する研究では、治療的な距離や一貫したチームアプローチが重要な視点として示されています。
申し送りでは、「困った患者さんだった」といった評価ではなく、観察した事実を共有しましょう。
- 何がきっかけだったか
- 患者さんがどのような言葉で不安を表したか
- どのような行動があったか
- 自傷・自殺に関する確認内容
- どの対応を行い、患者さんがどう反応したか
- 次に誰が、いつ、どのように対応するか
看護師自身に怒りや無力感、罪悪感が生じることもあります。その気持ちを患者さんへの評価として返すのではなく、カンファレンスなどでチームと共有してみてください。一人で対応を抱えないことも、継続して関わるための大切な工夫です。
実践ポイント:対応場面の例
担当交代を伝えたあと、患者さんが「結局、誰も私のことなんて気にかけていない」と涙を流し、ナースコールを続けて押す場面を考えてみましょう。
すぐに「そんなことはありません」と否定したくなるかもしれません。でも、その言葉だけでは、患者さんが感じている不安が置き去りになることもあります。まずは「担当が変わることで、必要とされていないように感じているのですね」と、患者さんの言葉の背景にある気持ちを確かめます。
そのうえで、自傷や自殺について考えているかを確認し、危険が疑われればチームへ報告します。安全が確認できたら、次に話せる時間や担当者、つらくなったときの知らせ方を伝えます。ここで大切なのは、その場を収めるためだけの約束ではなく、実際に守れる見通しを一緒に作ることです。
まとめ
見捨てられ不安を訴える患者さんには、次の点を意識して関わりましょう。
- 不安や怒りを否定せず、まず安全を確認する
- 行動だけで決めつけず、きっかけや気持ちを確かめる
- 実現できない約束はせず、対応できる範囲を具体的に伝える
- 感情は受け止め、危険な行動には安全を守る対応をする
- 患者さんへの説明や対応方針をチームで共有する
「寄り添うこと」と「何でも応じること」は同じではありません。患者さんの不安を大切にしながら、チームで守れる関わり方を考えていきましょう。
FAQ
「絶対に見捨てない」と伝えてもよいですか?
実現できない約束は避けましょう。後で対応できない状況になったとき、不安や怒りが強まる可能性があります。「次に話せる時間」や「つらいときの連絡方法」など、実際に守れる内容を具体的に伝えてください。
要求に応じないと、自傷すると言われた場合はどうすればよいですか?
要求に応じるかどうかだけで判断せず、まず自傷・自殺の考えや具体的な計画、現在の安全を確認します。危険が疑われる場合は一人で抱え込まず、施設の手順に従って医師や責任者、チームへ報告してください。
強い要求は「操作」と考えてよいですか?
そのように決めつけず、患者さんが何を恐れ、何を伝えようとしているのかを確認しましょう。ただし、背景を理解することは危険な行動を認めることではありません。感情は受け止めながら、安全上必要な限界を伝えます。
参考文献
- 日本精神保健看護学会誌掲載論文「境界性パーソナリティ障害患者に対する精神科熟練看護師の看護実践」(2016年発表と確認できる資料)
- 「見捨てられ場面における見捨てられスキーマと思考・感情・行動との関連」(2014年)
- 福島県立医科大学看護学部紀要「境界性パーソナリティ障害患者の治療枠組みと看護師の役割」(発行年は確認できる資料から特定できず)
- 福岡県立大学紀要「境界性パーソナリティ障害患者の怒りへの介入」(発行年は確認できる資料から特定できず)
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