こんにちは、ユウです。
看護の基本として、学生のころから「手はいつもきれいに」と教わります。処置の前後に手を洗う「一処置一手洗」という言葉も、実習で一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
ただ、病棟で働き始めると、「石けんと流水で洗うのか、アルコール手指消毒剤を使うのか」「どのくらいの量を使えばよいのか」「手袋をつける前後にも必要なのか」と迷う場面が出てきます。
今回は、手指衛生の目的とタイミング、正しい方法、手袋との関係、そして現場で手指衛生を続けるための工夫を、看護学生さんにも分かりやすくまとめます。
手指衛生とは
1.手指衛生の目的
手指衛生とは、石けんと流水による手洗い、または擦式アルコール製剤による手指消毒によって、手指に付着した微生物を減らす行為です。医療者の手を介して微生物が患者さんや環境へ広がるのを防ぎ、医療関連感染のリスクを下げることが目的です。
「きれいに見える手」にするだけではなく、患者さんに触れる前後や、清潔操作の前、体液に触れた可能性がある後など、感染が起こりやすい場面で確実に行うことが重要です。日本環境感染学会は、WHOの手指衛生多角的戦略に基づく教育資料を公開しています。
2.「一処置一手洗」を5つのタイミングで考える
「一処置一手洗」は、処置のたびに手指衛生を行うという覚え方です。実際の臨床では、処置だけでなく患者さんや周囲の環境に触れる場面も含めて、次の「手指衛生の5つの瞬間」で考えると整理しやすくなります。
- 患者さんに触れる前:バイタルサイン測定、移乗介助、清潔な衣類の交換などの前
- 清潔・無菌操作の前:注射、創部処置、カテーテル操作などの前
- 体液曝露のリスクがあった後:排泄物、血液、分泌物、創部などに触れた後
- 患者さんに触れた後:診察やケアが終了し、患者さんから離れるとき
- 患者さんの周囲の物品に触れた後:ベッド柵、床頭台、モニターなどに触れた後
5つの瞬間は、同じ患者さんのケア中でも必要になります。たとえば、オムツ交換の途中で汚染部位に触れた後、清潔な物品を扱う前には、手袋を交換するだけでなく手指衛生も行います。詳しい図解は、日本環境感染学会「手指衛生『5つの瞬間』サポートブック」を確認してください。
手洗いとアルコール手指消毒の使い分け
1.擦式アルコール手指消毒剤を使う場面
手に目に見える汚れがない場合は、擦式アルコール手指消毒剤を使う方法が基本です。流水の場所まで移動しなくてもその場で実施できるため、患者さんのそばで頻回に行う手指衛生に適しています。
製品によって濃度やポンプの吐出量が異なるため、「1プッシュなら必ず十分」とは限りません。製品の表示と施設の手順を確認し、手のひら、手の甲、指の間、指の背、親指、指先・爪の周囲、手首まで、すべてが濡れる量を使用します。擦り合わせている途中で乾いてしまう場合は、量が不足している可能性があります。
WHOの手技では、擦式アルコール製剤は全体でおおむね20~30秒を目安に、乾くまで擦り込みます。秒数だけを守るのではなく、塗り残しを作らず、乾燥するまで続けることが大切です。日本語の手順書は、国立健康危機管理研究機構(旧・国立国際医療研究センター)「手指衛生テクニカルリファレンスマニュアル 日本語版」で確認できます。
擦式アルコール手指消毒の手順
- 乾いた手に、製品表示に従った量を取る。
- 手のひら同士を擦り合わせる。
- 片方の手のひらで反対側の手の甲を擦り、左右を入れ替える。
- 指を組み、指の間を擦る。
- 指の背と関節を反対側の手のひらで擦る。
- 親指を反対側の手で包み、ねじるように擦る。
- 指先と爪の周囲を手のひらに擦りつける。
- 手首まで擦り、乾くまで続ける。
2.石けんと流水で手を洗う場面
手に目に見える汚れや血液・体液が付いているとき、トイレの後、食事の前などは、石けんと流水で洗います。感染症の種類によっては、施設の感染対策マニュアルで流水と石けんによる手洗いが指定されることもあります。迷う場合は、所属施設の手順を優先してください。
手洗いでは、手のひらだけでなく、手の甲、指の間、指の背、親指、指先、手首まで石けんを行き渡らせます。洗い残しがないように擦った後、十分な流水ですすぎ、清潔なペーパータオルなどで水分を拭き取ります。手が濡れたままだと微生物が移りやすくなるため、乾燥までを手洗いの一連の行為と考えましょう。
手洗いの標準的な所要時間は、WHO資料では全体で40~60秒が目安です。急いでいるときほど、指先や親指を省略しないように注意します。
手指消毒剤はどのくらい使うのか
手指消毒剤の使用量に、すべての製品・すべての人に共通する「○mL」という基準があるわけではありません。ポンプの吐出量、製品の性状、手の大きさによって必要量が変わるからです。
目安は、手指全体に行き渡り、擦っている間に乾ききらない量です。1回のプッシュで足りるかどうかは、実際に手の表面が十分濡れているか、指先や親指まで塗れているか、乾燥まで擦り続けられるかで判断します。施設が定めた製品別の使用量があれば、その指示を優先してください。
なお、病棟全体の使用量を評価するときは、使用量だけで手指衛生の良し悪しを断定しないことも大切です。患者数、処置件数、勤務時間、ディスペンサーの設置場所、製品の吐出量、手袋の使用状況などを併せて確認します。日本環境感染学会の教育資料には、手指消毒剤の消費量調査や直接観察の方法も掲載されています。
手袋を使うときの手指衛生
手袋は手指衛生の代わりにはなりません。手袋を装着する前には手指衛生を行い、外した後にも必ず手指衛生を行います。手袋を外すときに手へ微生物が付着する可能性があり、手袋の小さな破損や外し方による汚染も起こるためです。
同じ患者さんへのケアでも、汚染部位から清潔な部位へ移るときは手袋を交換します。患者さんが変わるとき、手袋が破れたとき、目に見える汚染があるときも交換が必要です。手袋を外した後に別の患者さんや物品へ触れる前には、必ず手指衛生を行いましょう。
手指衛生が続けにくい理由と改善のポイント
手指衛生が実施されない理由は、知識不足だけとは限りません。次のような環境要因が重なっていることがあります。
- 処置やナースコールが重なり、実施のタイミングを逃す
- ディスペンサーが患者さんのそばや動線上にない
- 手荒れや刺激感があり、使用をためらう
- 製品ごとの適量や手順がスタッフ間で統一されていない
- 使用量の数字だけが示され、具体的な改善方法が共有されていない
改善には、ディスペンサーを必要な場所へ配置すること、保湿剤を含む製品やスキンケア方法を検討すること、短時間の実技教育を繰り返すこと、直接観察や使用量のデータをフィードバックすることが役立ちます。個人の努力だけに任せず、手指衛生を実施しやすい環境をチームで作ることが重要です。
筆者の体験談
私が感染対策委員を担当したとき、毎年行っていたのが手指消毒剤の使用量チェックでした。勤務先では、手指消毒剤の使用量を1日24mL程度とする院内目安がありましたが、病院全体の平均は1日5~6mLほどでした。
数字だけを見ると、「もっと使ってください」と言いたくなります。しかし、実際の業務を思い浮かべると、オムツ交換の前後、手袋の交換、次の患者さんへの移動など、手指衛生が必要な場面は非常に多くあります。ディスペンサーの場所、業務の重なり、手荒れ、ポンプの吐出量など、使用量に影響する要因も一つではありません。
さらに、当時メーカー資料を調べたところ、一定時間たっても乾ききらない量を使うという考え方が示されていました。15秒程度の時間でも、処置が連続する現場では長く感じます。この経験から、手指衛生を「知っているかどうか」だけで評価するのではなく、必要量を使える物品配置と動線、製品の使いやすさ、スタッフが実施しやすい業務設計まで考える必要があると学びました。
24mLや5~6mLという数字は、あくまで当時の勤務先での院内指標と測定結果です。全国共通の基準ではありません。自施設で評価するときは、患者数や処置件数などの分母を確認し、使用量と直接観察、スタッフの声を組み合わせて判断することが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1.「一処置一手洗」は、毎回石けんで手洗いするという意味ですか?
A.いいえ。手指衛生を行うという意味で、手が目に見えて汚れていなければ擦式アルコール手指消毒剤を使える場面があります。手洗いと消毒のどちらを選ぶかは、汚れの有無、ケアの内容、感染症の種類、施設の手順で判断します。
Q2.手指消毒剤は1プッシュで十分ですか?
A.製品やポンプによって吐出量が異なるため、一律には言えません。手のひらから手首まで全体が濡れ、擦っている間に乾ききらない量を使います。製品表示と施設の手順を確認してください。
Q3.手袋をしていれば手指衛生は不要ですか?
A.不要ではありません。手袋を装着する前と外した後に手指衛生を行い、汚染部位から清潔な部位へ移るときは手袋を交換します。
Q4.15秒で乾けば、使用量は足りていますか?
A.時間だけで判断しません。製品や環境によって乾燥時間は変わります。手指全体に塗り残しがなく、手順を最後まで行える量を使い、製品表示・施設手順を優先してください。WHOの標準手技では、擦式アルコール製剤はおおむね20~30秒、石けんと流水による手洗いは40~60秒が目安です。
Q5.手荒れがあるときはどうすればよいですか?
A.ひび割れや出血がある場合は、早めに上司や産業保健・感染管理担当者へ相談します。保湿剤の使用、刺激の少ない製品への変更、適切な手袋の選択などを検討します。手荒れを理由に手指衛生を省略するのではなく、続けられる方法をチームで考えましょう。
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ユウのアドバイス
手指衛生は「手を洗う」という単純な動作に見えますが、実際にはタイミング、方法、使用量、手袋、環境のすべてが関係しています。まずは、患者さんに触れる前後、清潔操作の前、体液に触れた後、周囲の環境に触れた後という5つの瞬間を意識してみてください。
使用量の数字だけで自分や同僚を責めるのではなく、「必要な場所にディスペンサーがあるか」「手が乾燥するまで擦れる量か」「手荒れなく続けられるか」を一緒に確認することが、実践につながります。手指衛生を自分の習慣にすると同時に、チームで続けられる仕組みも作っていきましょう。
まとめ
- 手指衛生には、石けんと流水による手洗いと擦式アルコール手指消毒がある
- 「5つの瞬間」を使うと、実施するタイミングを整理しやすい
- 手指全体が濡れ、乾くまで擦れる量を使う。1プッシュや24mLが全国共通の基準ではない
- 手袋は手指衛生の代わりにならず、装着前・取り外し後にも手指衛生が必要
- 使用量だけでなく、直接観察、物品配置、手荒れ、業務の動線を含めて改善する
次の記事:看護の基本~手指衛生:【衝撃の事実】1プッシュじゃダメでした!~
参考文献・資料
- 一般社団法人 日本環境感染学会:手指衛生教育用資料
- 一般社団法人 日本環境感染学会:手指衛生「5つの瞬間」サポートブック
- 国立健康危機管理研究機構(旧・国立国際医療研究センター)・AMR臨床リファレンスセンター:手指衛生テクニカルリファレンスマニュアル 日本語版
- World Health Organization: WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care
※この記事は看護学習のための一般的な情報です。実際のケアでは、患者さんの状態、使用する製品の添付文書、所属施設の感染対策マニュアル・手順を優先してください。




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