こんにちは、ユウです。
吸引の勉強をしていると、「20kPaに設定するのか、30kPaまで上げるのか」「痰が取れないときは60kPaまで上げてもよいのか」と迷うことがあります。
吸引圧は、気道粘膜の損傷や低酸素などの合併症に関わるため、数字だけを暗記してはいけません。吸引する部位、人工気道の有無、吸引器の表示方法、測定条件、患者さんの状態によって、安全な設定を考える必要があります。
この記事では、「225mmHg(約30kPa)以下」という研究上の数値と、日本呼吸療法医学会のガイドラインを照らし合わせながら、正しい吸引圧の考え方を整理します。
安全な吸引圧
1.正しい吸引圧を考える前に
日本呼吸療法医学会の「気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕」は、18歳以上で人工気道を留置している患者さんを主な対象としています。口腔内・鼻腔内の吸引や、小児・新生児の吸引に、その数値をそのまま当てはめることはできません。
2013年版では、成人の人工気道患者に対して最大20kPa(150mmHg)が推奨され、接続チューブを完全に閉塞した状態で設定圧を確認する方法が示されていました。一方、2023年版では、200mmHgの陰圧を用いた研究が紹介されていますが、200mmHgを超える圧を比較した無作為化試験はなく、圧を一つの数値に固定できるほどの根拠は十分ではないと整理されています。
したがって、実際の看護では、①対象患者と吸引部位、②吸引器の測定条件、③施設の手順書、④患者さんの反応を確認して設定します。わからない場合は、自己判断で圧を上げず、指導者や医師、呼吸療法に詳しい看護師へ確認してください。
気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(日本呼吸療法医学会)
2.吸引とは
吸引とは、吸引装置に接続したカテーテルを用いて、気道内にたまった分泌物を陰圧で除去する医療行為です。分泌物による気道閉塞や換気不良を防ぎ、呼吸状態を整えることが目的です。
ただし、吸引は気道粘膜を刺激する侵襲的な処置でもあります。分泌物がないのに一律に行うのではなく、呼吸音、呼吸困難、SpO2の低下、分泌物の量や性状などを評価し、必要性を判断します。
気管吸引では、低酸素血症、粘膜損傷、出血、不整脈、気管支攣縮などが起こる可能性があります。実施者は手順と合併症を理解し、患者さんの状態を観察しながら行う必要があります。
吸引の定義や適応については、次の解説も参考になります。

3.吸引圧とは
吸引圧とは、吸引器が作り出す陰圧の強さです。機器の目盛りにはmmHgやkPaが用いられ、吸引器によっては「−」を付けて表示されます。この記事では、比較しやすいように陰圧の大きさを「150mmHg」「200mmHg」のように表記します。
おおよその換算は、150mmHg=約20kPa、200mmHg=約26.6kPa、225mmHg=約30kPaです。吸引は空気を押し出すのではなく引く処置なので、プラスの圧力と混同しないようにしましょう。
ここで重要なのは、吸引器の設定圧と、カテーテル先端の吸引圧は同じではないということです。チューブの長さ、内径、分泌物、接続部の状態、先端の開放・閉塞によって、実際に気道へかかる圧は変化します。
そのため、文献の数値を比較するときは、「どの位置で」「どの状態で」「どの機器を使って」測定した圧かを確認する必要があります。


4.ガイドラインと元記事の研究を比較する
「150mmHg」と「225mmHg」は、単純にどちらかが正しく、どちらかが間違っているという関係ではありません。対象、測定方法、吸引器の設定条件が異なるため、数値の意味を分けて読む必要があります。
| 資料 | 対象・条件 | 圧に関する内容 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 気管吸引ガイドライン2013 | 成人の人工気道患者。接続チューブを完全閉塞して設定圧を確認。 | 最大20kPa(150mmHg)を推奨。 | 2013年版の推奨。現在も施設手順の根拠として使われることがある。 |
| 気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕 | 成人の人工気道患者。研究結果と合併症を再評価。 | 200mmHgを用いた研究を紹介。200mmHg未満に下げてもSpO2低下をさらに抑えるとは限らず、200mmHg超を比較した試験はない。根拠の確実性は限定的。 | 一律の「正解」を示すのではなく、患者状態と施設手順を含めて判断する。 |
| 実証的研究 | 吸引カテーテル先端を開放した状態での吸引器設定値を検討。 | 設定値225mmHg(約30kPa)以下を扱う。 | 研究の測定条件に基づく数値であり、すべての吸引にそのまま適用する普遍的な設定値ではない。 |
元記事で紹介した研究の本文はこちらです。数値だけでなく、対象者、使用機器、圧の測定位置、吸引時間を確認して読んでください。

5.安全に吸引するための観察と実施
実施前
- 呼吸数、呼吸パターン、SpO2、呼吸音、意識状態を確認する。
- 分泌物の量・色・粘稠度、咳嗽の有無を観察し、吸引の必要性を判断する。
- 人工気道の種類・サイズ、吸引カテーテルの太さ、酸素投与やモニターの準備を確認する。
- 吸引器の設定圧は、施設の手順書に従って患者さんへ接続する前に確認する。
実施中
- 患者さんに説明し、可能な範囲で協力を得る。
- カテーテルを挿入するときは吸引をかけず、抜去時に必要最小限の陰圧をかける。
- 1回の吸引を長時間続けない。2013年版ガイドラインでは、1回の陰圧時間を10秒以内、挿入から終了までを15秒以内としています。最新の施設手順がある場合はそちらを優先します。
- SpO2低下、著しい呼吸困難、不整脈、徐脈、出血、強い抵抗がみられたら、ただちに吸引を中止して状態を確認する。
実施後
- 呼吸音、呼吸数、SpO2、顔色、意識状態が処置前に戻ったか確認する。
- 分泌物の量・色・性状、吸引回数、患者さんの反応を記録する。
- 低酸素や出血などの異常が続く場合は、酸素投与などを施設手順に従って行い、速やかに報告する。
痰が取れないときに、まず吸引圧を上げるとは限りません。カテーテルの閉塞や太さ、分泌物の粘稠度、加湿、体位、咳嗽の力、人工気道の位置などを再評価しましょう。
筆者の体験談
私も病棟で吸引を始めた頃、痰が思うように取れないと、吸引器のダイヤルを上げたくなったことがあります。先輩看護師から「圧を上げる前に、分泌物の位置と性状、カテーテルが通っているか、患者さんの体位や加湿を確認してみよう」と教えてもらいました。
その後、同じ「30kPa」という表示でも、文献によって吸引器の設定値なのか、カテーテル先端にかかる圧なのかが違うことを知りました。150mmHgと225mmHgの数字だけを比べると混乱しますが、測定条件まで確認すると、なぜ推奨値が資料によって異なるのかが見えてきます。
この経験から、私は「痰が取れないから圧を上げる」のではなく、患者さんの呼吸状態を再評価し、施設の手順書と指導者の判断を確認してから設定を決めるようにしています。これは私個人の経験であり、すべての患者さんに当てはまる方法ではありません。
よくある質問(FAQ)
Q1.吸引圧は225mmHg(約30kPa)にすればよいですか?
一律にそう設定することはできません。225mmHgは、一定の研究の測定条件に基づく設定値です。対象が成人の人工気道患者か、どの位置で圧を測定したか、施設がどのガイドラインを採用しているかを確認してください。
Q2.150mmHgと200mmHgのどちらを使えばよいですか?
2013年版は最大150mmHg(20kPa)を推奨し、2023年版は200mmHgを用いた研究を扱っています。両者は測定条件や根拠の整理が異なるため、数字だけで優劣を決められません。勤務先の最新手順書を優先し、患者さんの状態に応じて必要最小限の圧を選択します。
Q3.痰が取れないときは60kPaまで上げてもよいですか?
自己判断で60kPaまで上げないでください。60kPaは約450mmHgに相当し、2023年版で検討された範囲を大きく超えます。高圧・長時間の吸引は、粘膜損傷、出血、低酸素、不整脈などの危険を高める可能性があります。吸引カテーテルや人工気道の状態、分泌物、加湿、体位などを再評価し、必要時は上級者へ相談します。
Q4.口腔内・鼻腔内吸引にも同じ数値を使えますか?
同じ数値をそのまま使うことはできません。気管吸引ガイドライン2023の対象は、成人で人工気道を有する患者さんです。口腔内・鼻腔内吸引、小児・新生児の吸引には、それぞれの施設手順や専門ガイドラインを確認してください。
Q5.吸引中にSpO2が下がったらどうしますか?
吸引を中止し、患者さんの呼吸状態と意識、脈拍、SpO2を確認します。施設手順に従って酸素化や換気を行い、改善しない場合や重症所見がある場合は、直ちに医師・責任者へ報告してください。
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ユウのアドバイス
吸引圧は「何kPaにすれば正解」と一つの数字だけを覚えるよりも、対象患者、測定条件、吸引時間、患者さんの反応をセットで考えることが大切です。2023年には気管吸引ガイドラインが改訂され、これまでの資料を見直す必要も出てきました。実習や臨床では、最新の施設手順と根拠文献を確認し、安全を最優先に吸引を行いましょう。
参考文献・参考資料
- 日本呼吸療法医学会:気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕
- 日本呼吸療法医学会:気管吸引ガイドライン案内ページ
- 日本呼吸療法医学会:気管吸引ガイドライン2013
- 安全で効果的な気管内吸引圧の実証的研究(元記事で紹介した研究)
- 看護用語辞典・ナースpedia:吸引
- Minds掲載の気管吸引関連資料(元記事の旧リンク)
この記事は学習を目的とした一般的な解説です。吸引は医療行為であり、実施の可否・圧設定・手順は、患者さんの状態、医師の指示、施設のマニュアル、使用機器の取扱説明書に従ってください。




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