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脳梗塞急性期の事例とアセスメント・看護問題・看護計画

看護記録の書き方
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脳血管障害(脳卒中)には、脳の血管が詰まる脳梗塞と脳の血管が破れる脳出血、くも膜下出血があります。そのうちの脳梗塞は何らかの原因で、脳の血管が狭窄・閉塞し、虚血が起こって、その血管が支配する領域の脳組織が壊死した状態です。急性期のメイン治療として、rt-PA静注療法(血栓溶解療法)の適応があります。今回は脳梗塞急性期の看護計画を立案しました。

事例紹介

患者:Aさん
年齢:75歳
性別:男性

 愛知県の大手自動車メーカーで課長職を務めていた。入職時よりエンジンの設計を手掛け、海外勤務もしていた。就職当初からタバコを吸い始め、現在も20本/日のペースで喫煙を続けている。
 結婚後は一男一女をもうけ、息子は東京で勤務、娘は愛知県内に嫁いでいる。定年後は妻と小旅行などを楽しんでいたが、妻が3年前に肺炎を患って他界。その後、娘が同居を申し出たがそれを断り、住み慣れた自宅で独居を続けている。
 在職中の検診時に高血圧と脂質異常症を指摘されていたが、長く放置していた。妻の他界後は、近くのかかりつけ医に通うようになり、血圧降下薬を飲み始めた。掃除や洗濯などは自分で行っているが、あまり得意ではない。ご飯だけを炊き、おかずはスーパーの総菜で済ませている。外食も週に2~3度行っており、昼はラーメンや天丼などの店屋物を利用する。
 兄弟は3人で、5歳年長の兄は公務員であったが、定年後62歳で急性心筋梗塞により他界した。1歳年下の妹は秋田県内に嫁いだが、現在は要介護状態で施設に入所している。親戚づきあいも疎遠となっている。
 脳梗塞発症時の慎重は165㎝、体重71㎏、BMI26である。

 ある寒い冬の朝、Aさんは起床後にいつもと変わらずトイレで排泄を済ませた。朝6時に長女からのモーニングコールで通常どおり電話で話しをした。
 その後、歯磨きをしている最中に急に右手の脱力を自覚し、口に含んだ水が右口角からこぼれてうまくゆすげずむせてしまった。歩こうとすると右脚に力が入らず、転びそうになりながらも時間をかけて何とか居間まで右足を引きずりながら歩き、長女に電話をした。
 電話をかけることはできたが、呂律が回らなかった。長女はAさんの言葉を聞き取れず、電話の様子で異常事態を察知し、7時に救急車を呼んだ。

 救急隊が到着したとき、Aさんは名前を答えることはできたものの、構音障害のためその他の話は聞き取りづらく、右上下肢の挙上が困難な状態であった。救急車で市中の急性期病院に救急搬送された。到着時刻は7時25分であった。
 搬入時の意識レベルはJCSⅠ-2、神経学的所見では、右上下肢の麻痺、右顔面麻痺と構音障害を認め、NIHSSは9点(意識質問1、顔面麻痺2、右腕3、右脚2、構音障害1)であった。バイタルサインは血圧182/122mmHg、脈拍数96/分(不整)、SpO2 98%
 脳卒中が強く疑われたため、頭部CT検査とMRI検査を行い、CT検査では所見が確認されなかったが、MRI上では左中大脳領域の新鮮梗塞所見を認め、8時10分に脳卒中集中治療室(SCU)に入室し、血栓溶解療法(rt-PA)が施行された。

脳梗塞急性期のアセスメント

急性期病院では、情報提供を受けた時点で最終健常時刻を確認し、ERでの受け入れ準備、CT・MRI室への連絡をします。最終健常時刻から4.5時間以内であればrt-PAを行うことができますし、投与は早ければ早いほど予後がよくなるため、検査や診断は時間との闘いになります。

A:Aさんは7時25分に病院へ到着し、MRI検査によって左中大脳動脈の基栓によって脳梗塞を起こしたと診断されている。最終健常時刻から4.5時間以内であること、NIHSS 42点中26点以上の場合はrt-PA慎重投与となるが、Aさんは9点であり、rt-PA療法の通常適用となっている。血栓溶解療法による合併症として、出血リスクが高まる可能性がある。特に投与開始後24時間は出血リスクが高い。

P:新たな出血がないか観察していく必要がある。特に脳出血による意識レベルの低下、構音障害の悪化、嘔気・嘔吐などがないか、全身の皮膚状態として紫斑や出血がないか観察が必要。

A:JCS I-2と評価されており、刺激しなくても開眼しているが見当識障害がある状態である。Aさんは高齢であること、急な入院による環境の変化、脳血管障害といったことからもせん妄リスクが高いと考えられる。また、右上下肢の麻痺も見られており、右半身の脱力から自力での体位変換が困難になることや感覚障害が生じる可能性がある。

P:ルート類抜去やベッドからの転落、言動の混乱などがないか観察が必要。必要に応じてミトンや抑制帯、ベッド柵の変更なども検討する。点滴架台は手に触れない位置にするなどの対策も必要。
また、自力での体位変換が困難であり、同一部位の長時間圧迫による循環障害や皮膚トラブルが起こりやすい状態のため、適宜除圧が必要。感覚障害(温度覚や痛覚障害)による圧迫や皮膚障害が起こる可能性もあり、特に右上下肢の皮膚状態の観察が必要。

アセスメント(A)と計画(P)を混同している文献や記録が多く見られます。例えば、よくあるのは、Aに「〜が必要」などと書いてしまうものがあります。「〜が必要」はPです。
アセスメントは考えられること、計画はどうしたら良いかどうしていくかを書くところです。
間違えないようにしましょう。

脳梗塞急性期の看護計画

観察計画 O-P rt-PA静注療法実施後は合併症を発症する可能性がある。早期発見のために、定期的にNIHSSを用いて状態を評価する。CTやMRIといった画像から出現する症状について予測しておくことも大切。また血圧や意識レベルの推移などその他の全身状態についても把握しておく。

援助計画 T-P 患者さんの状態把握に務める。合併症や後遺症予防のためにも早期からリハビリに取り組む。また、後遺症がある場合には、残存機能に応じた必要な援助を考える。患者さん家族への対応も必要となる。

教育計画 E-P 必要なことを患者さん、家族に説明する。急変の可能性や今後の生活についてなどを伝える。

*紹介する看護計画はあくまでも例です。この例を参考に患者さんに合わせた看護計画を作成してください。

看護問題

生命の危機がある
急速な身体機能の変化がある

看護目標

生命の危機を回避する
現在の身体機能を受け入れられる

観察計画 O-P

バイタルサイン、意識レベル、瞳孔所見
NIHSS、神経症状の確認、推移
運動障害、感覚障害の有無、程度
In/Outバランス
食事摂取量や飲水量
排泄状況(尿量、排便や排尿の回数、性状など)
患者や家族の疾患や現状に対する認識
患者の混乱した言動、見当識障害の有無
検査データ(電解質、腎機能など)
画像データ(CT、MRIなど)

援助計画 T-P

意識レベルやNIHSS、MMTなどの推移を確認
医師の指示に基づく薬剤を使用する
可能な範囲で経口摂取や早期離床を促す
残存機能に応じた生活援助を行う
必要に応じて患者や家族の疾患の心理的援助を行う

教育計画 E-P

急性期では、必要に応じて患者や家族へ急変リスクを説明する
リハビリの必要性を説明する
患者や家族へ残存機能に応じた生活援助の方法を説明する
必要な社会資源の情報を提供する

執筆の都合上、アセスメントや看護計画をかなり一般化しています。
超急性期では発症時から入院直後の病態や治療に関する情報収集とアセスメントを中心に、超急性期を脱したら、退院までに個別性を踏まえて生活習慣や家族のこと、リハビリの方法や今後の自宅での過ごし方などを中心にアセスメントしていきます。
時期によってアセスメントや看護計画のポイントがガラッと変わってきますので注意してください。

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まとめ

 今回は脳梗塞急性期の患者さんで急性期治療(rt-PA)を受けた患者さんの事例をアセスメントをしました。本事例は架空の事例であり、特定の患者さんを示すものではありません。

 脳梗塞急性期の看護ってどうしたら良いのかな?と思ったときに、アセスメントから看護課題の抽出、そして看護計画まで一つの事例として参考にしてもらえたら幸いです。

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