こんにちは、ユウ塾長です。腹痛を訴える患者さんに、まず何を聞けばよいのか迷ったことはありませんか?痛む場所を聞いているうちに、全身状態の変化を見落としていないか心配になることもありますよね。今回は、緊急性の確認から痛みや随伴症状の整理、報告の仕方まで一緒に見ていきましょう。
結論:腹痛の詳しい問診より、まず全身状態と緊急性を確認する
腹痛では、最初に意識・呼吸・循環などの全身状態を見て、緊急性が高ければ問診を続ける前に報告・応援要請を行います。状態が落ち着いていれば、「いつから」「どこが」「どのように痛み、どう変化したか」と、嘔吐や出血などの随伴症状を整理します。
痛む場所だけで疾患を決めつけず、バイタルサインや患者さんの様子と合わせて考えることがポイントです。急激に始まった激しい痛み、意識の変化、ショックを疑う所見、消化管出血などがあれば、施設の急変対応手順に沿って速やかに対応してくださいね。
読了時間:約8分
この記事でわかること
腹痛を訴える患者さんへの対応について、次のポイントを説明します。
- 問診より先に確認したい全身状態と緊急性
- 痛みの場所・性質・経過を整理する方法
- 嘔吐や排便・排尿の変化など、合わせて聞きたい症状
- 医師や上級看護師へ報告するときのまとめ方
結論の根拠:腹痛は経過や随伴症状と合わせて評価する
日本医療機能評価機構のMindsに掲載された『急性腹症診療ガイドライン2015』の病歴聴取に関する資料では、腹痛の位置や性状、発症の仕方、痛みの移動、嘔吐、吐血・血便、下痢・便秘などを確認し、緊急手術が必要な病気の可能性を検討することが示されています。発症や経過を系統的に聞く方法として、OPQRSTも紹介されています。
また、NCBI Bookshelfの「Acute Abdomen」では、急性腹痛の評価にあたり、バイタルサインや全身状態の確認と、腹部の診察を組み合わせることが説明されています。つまり、痛みの聞き取りだけでなく、患者さんの顔色や意識、呼吸、循環の状態も一緒に見る必要があります。
これらの資料は評価の手がかりを示すものですが、症状だけで診断を確定するものではありません。『急性腹症診療ガイドライン2015』の病歴聴取資料や「Acute Abdomen」は、腹痛を評価する際に確認する項目や全身状態を観察する視点を示しています。看護では、異常や変化を捉えて、緊急度を含めて医療チームに伝えることが大切です。
まずは全身状態と緊急性を確認する
患者さんが「お腹が痛い」と訴えたら、痛みの詳しい聞き取りに入る前に、まず目の前の様子を見てみましょう。意識、呼吸、脈拍、血圧、体温、SpO₂などを確認し、顔色、冷汗、苦しそうな表情、強い脱力がないかも観察します。
次のような変化がある場合は、問診を続けるより、速やかな報告や応援要請を優先します。
- 血圧低下、頻脈、呼吸促迫、SpO₂低下
- 意識レベルの低下や失神
- 顔面蒼白、冷汗、末梢の冷たさ
- 突然始まった強い痛み、短時間で増悪する痛み
- 吐血、血便、黒色便
- 嘔吐を繰り返している
- 腹部膨満があり、排便・排ガスができない
- 尿が出ない、血尿を伴う側腹部痛
- 妊娠の可能性や性器出血を伴う下腹部痛
これらは、特定の病気を決めるサインではありません。「緊急度を上げて相談したい所見」として捉え、施設の急変対応基準に沿って行動してください。
痛みはOPQRSTで整理する
状態が落ち着いている場合は、痛みを順番に聞いていくと整理しやすくなります。OPQRSTは、発症から時間経過までを確認するための枠組みです。
| 項目 | 確認すること | 質問の例 |
|---|---|---|
| O:発症 | いつ、どのように始まったか | 「いつから痛みますか?突然ですか、徐々にですか?」 |
| P:増悪・軽減 | 何をすると強くなる・弱くなるか | 「動いたり、食べたりすると変わりますか?」 |
| Q:性質 | どんな痛みか | 「刺すような痛みですか?締めつけられる感じですか?」 |
| R:場所・放散 | どこが痛むか、別の場所に響くか | 「どこが痛いですか?背中などに響きますか?」 |
| S:強さ | 痛みの程度や生活への影響 | 「0から10で表すと、どのくらいですか?」 |
| T:時間経過 | 続くか、波があるか、悪化しているか | 「ずっと痛みますか?強くなっていますか?」 |
痛みの強さは、施設で使っているNRSなどの尺度を用いて確認します。ただし、数値だけで緊急性を判断することはできません。痛みの数値に加えて、発症の仕方、全身状態、時間とともに悪化しているかも合わせて見てくださいね。
患者さんに腹部の図を見てもらい、痛む場所を指してもらう方法もあります。言葉だけでは伝わりにくい場合に、場所や移動を記録しやすくなります。
痛む場所は「今どこか」と「どう移ったか」を聞く
痛む場所は評価の手がかりになりますが、部位だけで病気を決めることはできません。米国家庭医学会(AAFP)の急性腹痛の評価に関する解説でも、腹痛の部位は診断を考える出発点の一つとして扱われています。
現在の場所に加えて、次の点も確認してみましょう。
- みぞおち、臍の周囲、右下腹部、左下腹部など、どこが痛むか
- 痛みが別の場所へ移動したか
- 背中、肩、胸、鼠径部などに響くか
- 痛みが腹部全体に広がっているか
たとえば、虫垂炎では臍の周囲から右下腹部へ痛みが移ることがあります。しかし、すべての患者さんが典型的な経過をたどるわけではありません。「右下腹部だから虫垂炎」といった決めつけはせず、発症や経過、随伴症状、バイタルサインと合わせて整理します。
痛みの性質と時間経過を確認する
「痛い」という言葉を、患者さん自身の表現で具体的にしてみましょう。刺すような痛み、鈍い痛み、締めつけられる感じ、焼けるような痛みなど、どのような表現でも記録の手がかりになります。
あわせて、次のような違いを確認します。
- 突然始まったか、徐々に始まったか
- ずっと続いているか、波のように強弱があるか
- 発症後に強くなっているか
- 動く、咳をする、深呼吸をすることで変化するか
- 食事や排便・排ガスによって変化するか
急激に始まった痛みや、短時間で悪化している痛みは、緊急性を考えるうえで重要な情報です。痛みの性質だけで判断せず、いつからどう変化したかを具体的に伝えましょう。
随伴症状は消化器以外も確認する
腹痛に伴う症状は、吐き気や下痢だけではありません。『急性腹症診療ガイドライン2015』の病歴聴取資料では、嘔吐、下痢・便秘、吐血・血便のほか、既往歴、服薬歴、アレルギー、食事、女性の妊娠可能性なども確認項目として扱われています。
聞き漏らしを防ぐため、次のように分けて考えると整理しやすくなります。
- 消化器の症状:吐き気・嘔吐、下痢、便秘、血便、黒色便、腹部膨満、食欲低下
- 発熱など:発熱、悪寒、全身のだるさ
- 泌尿器の症状:排尿時痛、頻尿、血尿、尿量の低下、側腹部痛
- 婦人科・妊娠に関すること:最終月経、月経との関係、不正出血、妊娠の可能性
腹痛があるからといって、消化器だけに注目しないことも大切です。胸の症状、息苦しさ、背部痛、排尿症状などがないかも確認します。腹痛には消化器以外の病気が関わることもあり、NCBI Bookshelfの「Abdominal Pain」でも、発症や痛みの局在、経過、随伴症状を組み合わせて評価することが説明されています。
報告は「時系列」と「客観的な情報」を入れる
「腹痛があります」だけでは、受け手が緊急度を判断しにくいことがあります。発症時刻、痛みの変化、バイタルサイン、随伴症状をまとめて伝えましょう。
SBARを使う場合は、次のように整理できます。
- S(状況):「突然始まった強い上腹部痛を訴えています」
- B(背景):「心房細動の既往があり、抗凝固薬を内服しています」
- A(評価):「血圧90/56 mmHg、脈拍118回/分です。冷汗があり、痛みは背中にも響くと話しています」
- R(提案・依頼):「状態の悪化が心配です。至急診察をお願いします」
これは報告の組み立て方の例です。必要な観察や対応は患者さんの状態と施設の手順に沿ってください。
報告の際には、分かる範囲で次の情報を添えます。
- 痛みが始まった時刻と、突然か徐々か
- 痛みの場所、移動、放散
- 痛みの性質と強さ、時間経過
- バイタルサインと意識状態
- 腹部膨満などの観察所見
- 嘔吐、便、尿、出血の状況
- 最後に食べた時刻、排便・排尿の状況
- 既往歴、手術歴、服薬、アレルギー
- 妊娠の可能性が関係する場合は、その情報
一度報告したあとも、痛みの増強や新たな嘔吐、発熱、腹部膨満、意識の変化などがあれば再評価し、変化を伝えます。
実践ポイント:腹痛を訴える患者さんへの対応
腹痛患者さんに対しては、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- 緊急性:意識、呼吸、循環、顔色、冷汗、急激な悪化の有無
- 発症:いつ、突然か徐々か、何をしていたか
- 部位:どこか、移動したか、放散するか
- 性質・強さ:刺す、締めつける、鈍い、波がある、NRS
- 経過:持続か間欠か、増悪か軽減か
- 随伴症状:嘔吐、発熱、下痢、便秘、血便、黒色便、排尿異常
- 背景:既往、手術歴、薬剤、食事、妊娠可能性
- 報告:時系列と客観的数値を含め、緊急度を明確に伝える
筆者の体験談:現場の報告場面をたどってみる
ここでは、報告の組み立て方をイメージしやすいよう、場面を一つたどってみます。患者さんが「急にお腹が痛くなった」と訴え、顔色が悪く、冷汗も見られるとします。
「まず痛む場所を詳しく聞こう」と考えたくなるところですが、この場面では、問診を続ける前にバイタルサインや意識など、全身状態を確認することを優先します。もし数値や様子に気になる変化があれば、痛みの詳しい聞き取りをいったん止め、応援を求めて報告します。
患者さんの状態が落ち着いていると確認できたら、発症時刻、痛みの場所や移動、性質、強さ、嘔吐や便の状況を順番に聞きます。最初に聞いた内容と、その後の変化を分けて伝えると、受け手にも経過が伝わりやすくなります。
腹痛の報告は、痛みの言葉を集めるだけではなく、「今、患者さんの状態がどう変化しているか」を伝えることでもあります。私はこの順番を意識すると、聞きたいことが多い場面でも整理しやすいと感じています。
まとめ
腹痛を訴える患者さんには、まず全身状態と緊急性を確認し、異常があれば問診を続ける前に報告・応援要請を行います。状態が落ち着いていれば、OPQRSTを使って発症、部位、性質、強さ、経過を整理し、嘔吐・出血・排便排尿の変化なども確認しましょう。
痛む場所だけで判断せず、時間経過や随伴症状、バイタルサインと合わせて伝えること。まずはこの流れを意識してみてくださいね。
FAQ
痛みの数値が低ければ、緊急性は低いですか?
数値だけでは判断できません。急激な発症や全身状態の変化、出血などがあれば、痛みの数値が高くなくても速やかな報告が必要です。
腹痛の患者さんに、何度も腹部を触れて確認してよいですか?
強い痛みや腹膜刺激症状が疑われる場合は、看護師が繰り返し強く触診するのではなく、観察した反応を速やかに報告してください。腹部の診察や対応は、患者さんの状態と施設の手順に沿って行います。
腹痛の訴えがはっきりしない患者さんでは、何を見ればよいですか?
言葉で表現することが難しい場合は、顔色、冷汗、体位、呼吸、意識、腹部膨満なども観察し、バイタルサインと合わせて伝えます。患者さんの普段の様子からの変化も、評価の手がかりになります。
参考文献
- 日本医療機能評価機構 Minds掲載『急性腹症診療ガイドライン2015』「急性腹症の病歴聴取 第Ⅵ章」資料、2015年。
- StatPearls、NCBI Bookshelf「Acute Abdomen」資料。
- NCBI Bookshelf「Abdominal Pain」資料。
- American Academy of Family Physicians「Evaluation of Acute Abdominal Pain in Adults」記事、2008年。
この記事の学習を深めるおすすめ書籍
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看護の学びなおし バイタルサイン
著者:白坂友美
出版社:照林社
バイタルサインを単なる数値でなく患者の状態として読み取る方法を学べる本で、腹痛でまず全身状態を確認する学びを深めやすいです。
フィジカルアセスメント 根拠からわかる!実習で実践できる!
著者:中村充浩
出版社:照林社
フィジカルアセスメントの方法と根拠を実践的に学べる本で、腹痛患者の観察や身体所見の整理に役立ちます。
看護の現場ですぐに役立つ 症状別看護過程
著者:大口祐矢
出版社:秀和システム
症状別に看護過程やアセスメントを整理できる本で、腹痛の聞き取りから報告までの流れを看護過程の視点で深められます。
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