術後合併症 ~深部静脈血栓症(DVT)~



深部静脈血栓症(DVT: Deep Vein Thrombosis)は術後のベッド上安静によって起こりやすい合併症です。

飛行機内などで、長時間同じ姿勢を取り続けていると発症することもよく知られており、いわゆるエコノミークラス症候群とも言われます。

どのようなメカニズムでどんな症状が起こりうるのか学びましょう。


 深部静脈血栓症と肺塞栓症

1.出現しやすい時期

深部静脈血栓症は術直後~1週間程度が発症しやすいと言われています。

臥床期間が続くほど発症リスクも継続します。

2.深部静脈血栓症の原因

下肢の血液の流れは、主に下肢の運動による筋肉のポンプ作用により作られています。

そのため、術中・術後に下肢を動かさない状態が続くと、静脈血がうっ滞して血栓ができ、深部静脈血栓症(DVT: Deep Vein Thrombosis)になります。

さらに、その血栓が肺に流れ詰まると肺塞栓症(PE: Pulmonary Embolism)になります。

発症要因

深部静脈血栓症の発症には、次の3つの要因があります。

  1. 血のめぐりが悪くなる
  2. 血管の壁が傷付き炎症を起こす
  3. 血が固まりやすくなる、

手術や長期臥床のほかにも、癌、高齢、肥満、妊娠なども深部静脈血栓症の発症リスクになります。さらに、これらのリスクが多ければ多いほど、深部静脈血栓症は起こりやすくなります。

3.深部静脈血栓症の症状

深部静脈血栓症になると、下記のような症状がみられます。

深部静脈血栓症

下肢全体の腫脹、鈍痛、緊満感、皮膚の色調変化(紫色、赤色)表在静脈の怒脹、足関節背屈時の下腿三頭筋の痛み(ホーマンズ徴候)などがあります。

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4.肺塞栓症とは

肺塞栓症は、塞栓のもととなる因子(血栓、脂肪、腫瘍塊、空気など)が、肺循環系に流入して肺の血管を閉塞し、肺循環障害を起こす状態を指します。

下肢深部静脈に形成した血栓がはがれて、肺静脈内に流入して発症することが多いです。

5.肺塞栓症の原因

肺塞栓症の原因には、以下のものがあります。

血管壁の異常

手術後、各種の血管炎、外傷などがみられます

血液のうっ滞

長期臥床、静脈圧迫、うっ血性心不全などが原因で起こるとされています

血液凝固、線溶系の異常

悪性腫瘍、抗がん薬、多血症、経口避妊薬内服などにより血液凝固線溶系の異常が起こるとされています

その他

心臓カテーテル検査、ペースメーカー挿入術などが原因となる場合もあります
長時間同一姿勢で坐位を続けることにより、血栓が生じるとされています

6.肺塞栓症の症状

肺塞栓症になると、下記のような症状がみられます。

肺塞栓症

急激な呼吸困難冷汗動悸意識障害(失神など)発熱胸痛などがあります。

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7.深部静脈血栓症と肺塞栓症の観察ポイント

深部静脈血栓症は、一度起こると致命傷となることもあります。

そのため、予防が非常に大切です。

観察のポイント
  • 下肢深部静脈血栓症の症状(足背動脈が触知できないなど)
  • 下肢の疼痛や腫脹・熱感
  • 下腿三頭筋(腓腹筋、ヒラメ筋)の把握痛
  • ホーマンズ・サイン(足の背屈により生じるふくらはぎの痛み)
  • 無症状のこともある.
  • 採血データ(特にDダイマー)や下肢エコー
肺塞栓症の症状
  • 急激な呼吸困難
  • 血圧低下
  • ショック
  • チアノーゼ
  • 胸痛
  • 意識障害
  • 低酸素血症を示すだけで自・他党的所見の乏しいこともある。 
足背動脈の触知は不要?

参考書や学校の授業の中で、深部静脈血栓症の有無を判断するために足背動脈が触れるかどうか確認するということが書かれていることがあります。しかしながら、これには全く根拠がないということを理解しておいてください。

というのも、静脈注射した時にエアーが入った場合、近くの動脈まで飛んで空気塞栓が起こったということを聞いたことがあるでしょうか?深部静脈血栓症は下肢の静脈で起こる血栓症のことです。

静脈でできた血栓は、もし飛んで行ったとしても下大静脈を通って心臓、肺動脈とつながり、ほとんどここで詰まってしまいます。これを肺塞栓症といいます。深部静脈血栓症と肺塞栓症は密接に関係しており、二つ合わせて静脈血栓塞栓症ともいいます。

深部静脈血栓症
(引用:国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス)

肺より先の肺静脈、左房左室からの動脈系で末梢の足背動脈まで届くことはほとんどないでしょう。

というわけで、足背動脈かが触れないからといって血栓があるわけでもないですし、逆に足背動脈が触れるから血栓が無いわけでもありません。もっと有用な判断の基準となるデータであるDダイマーや下肢エコーの結果を根拠にした方が良いでしょう。

【追記 2015/6/28】

8.深部静脈血栓症の予防法

深部静脈血栓症は、肺塞栓症を引きおこす原因となり致命傷となることもあります
静脈血のうっ滞がその主な原因となるため、下肢を動かして筋肉のポンプ作用により血流を促すことが予防につながります。

静脈血のうっ滞を減らす
  • 体位変換・早期離床
  • ベッド上における下肢の運動、膝、足首の運動
  • 術中・術後を通して、弾性ストッキング間欠的下肢空気加圧器の使用
  • 仰臥位では、ベッドから下肢を15cm程度挙上参考:静脈血栓予防のエビデンス
  • 適度な水分摂取
内膜の損傷を少なくする。
  • 下肢の静脈から点滴をしない。

9.術後合併症まとめ

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 ユウのアドバイス

近年の研究により、術後の早期離床を促す病院が増えています。しかし、疼痛やその他の事情ですぐに離床できない場合もあります。そんなときには、深部静脈血栓症のリスクが高まると覚えておいてください。これ、重要ですからね!!ヾ(ω` )/

 




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14件のコメント

  • 超未熟者

    現在、とある病院で実習中の看護学生です。
    深部静脈血栓症についてわかりやすく書かれていたので、非常に役に立ちました!
    ありがとうございます^^

    • ユウ

      コメントありがとうございます!!
      学生さんのお役に立ててとても嬉しいです。
      他の記事もできる限り学生さんに分かりやすく書いていますので、ぜひ読んでみてくださいね!!(*^ω^*)

  • ゆう

    学生です。
    とても分かりやすい説明でした。ありがとうございました。
    質問をしても良いでしょうか。もし術後下肢に血栓が出来たらヘパリンやワーファリンなどの投与が始まると思いますが、その後の離床はどんなことに注意していけばよいのでしょうか。離床をすることで血栓を飛ばすことを助長してしまいますよね。

    • ユウ

      コメントありがとうございます。
      術後、もしも血栓ができてしまっていたとしても、完全に詰まっていなければほとんど症状(下肢の浮腫や足背動脈の不触知など)が現れることはないです。
      そのため、術後は下肢に血栓ができているかどうかの判断は難しいのが現状です。
      仮に出来ていたとしても、小さな血栓であれば、出来ているのかどうかさえ分かりません。通常通り、離床後に急な胸痛や気分不快がないか患者さんの様子を見ながら、付き添いのもと歩きましょう。
      血栓により血管が完全に詰まっている場合は、抗凝固剤や血栓溶解剤を用いて血栓を小さくしたり、場合によっては手術をしてから同様に離床が始まるでしょう。

  • 小林浩平

    深部静脈血栓症の徴候として足背動脈が触知できなくなるということの根拠文書があればおしえてください。静脈血の鬱滞で足背動脈が触知できなくなるのか知りたいです。ASOなど動脈疾患なら理解できるのですが。よろしくお願いします

    • ユウ

      コメントありがとうございます。鋭い質問ですね。
      確かに、「静脈」血栓なのになぜ「動脈」を触知する必要があるのか疑問に思いますよね。
      看護の参考書によると、血栓により大腿静脈が完全に閉塞すると、脚全体の血流が阻害されて腫脹します。つまり、脚全体の浮腫が強くなる結果、動脈触知も困難になると書かれていました。
      出典等は記憶になく申し訳ありませんが、このような理解があり本記事を書かせていただきました。

  • 小林浩平

    ありがとうございます。足背動脈触知について書いてある。教科書、看護参考書がありませんので、載っている文献、教科書があればと思い、コメントしました。その根拠で行くと高度浮腫がある患者も足背動脈触知ができなくなるということになります。私の経験上元々触知できない人は、散見されますが、浮腫の出現によって、元々触知出来る人が、できなくなるということはなかったです。浮腫が進行→足背動脈触知できないということがあるとしても、片足に出現する浮腫、腫脹を徴候と捉えるべきであると考えます。深部静脈血栓ー観察と検索するとトップに出てくる記事なのでどうも学生の多くが参考にしているようで、私は足背動脈触知は徴候として関係ない。書いてあるテキストはない。と指導していて、一度お聞きしたいと思いコメントしました。引き続きテキストを探してみます。

    • ユウ

      貴重なご意見、ご指摘ありがとうございます。
      ご指摘ををもとに「足背動脈の触知ができないことと深部静脈血栓症は関係が薄いという意見もある」と記事に追記させていただきました。
      学生の正しい理解を手助けできるよう努めていきたいと思います。

  • いし

    学生です。
    血栓の有無は触診でどのような感じでわかりますか?
    弾力性が違うのでしょうか?

    • ユウ

      コメントありがとうございます。
      血栓の有無については、触診ではほとんどわかりません。
      肉眼的に確認するには、下肢の静脈エコーなどの検査をするしかありません。

      血栓が疑われる所見としては、
      下肢全体の腫脹、鈍痛、緊満感、皮膚の色調変化(紫色、赤色)、表在静脈の怒脹、足関節背屈時の下腿三頭筋の痛み(ホーマンズ徴候)などがあります。

  • いし

    ありがとうございます。
    フィジカルアセスメントとして上げようと思っていたのですが、やはり難しいです。
    特徴はありますか?

    • ユウ

      フィジカルアセスメントとして深部静脈血栓症の有無を判断するのは難しいでしょう。
      新しい研究が望まれます。

  • 渡邊真二

    一般急性期病棟と精神科救急病棟のかけもちをしている看護師です。
    深部静脈血栓についてわかりやすく書かれていて、とても読みやすかったです。
    一点ご質問があるのですが、下肢挙上の角度を15度と書かれてありますが、この角度を支持する論文などがございましたらご教示いただきたいと存じます。
    日本循環器学会が発表したガイドライン(2009改定)でも角度が示されていないようなので、もしご存じであればと思コメントさせていただきました。

    • ユウ

      コメント&ご指摘ありがとうございます。
      下肢挙上の角度については、表記が間違っておりました。
      ベッドから15cm程度挙上すると良いとのことです。
      また、日本人の平均股下(男性:78.2cm, 女性:70.9cm 男女平均:74.6cm)を考慮すると、下肢の角度は、およそ11度が良いとなります。
      早速修正させていただきました。ありがとうございました。

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